戦国異伝
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第四十二話 雨の中の戦その四
だが彼は己のその戦に酔ってはいなかった。今川の兵達を吹き飛ばしながらだ。目指すものを探していた。
「義元殿は何処だ!この槍の又左が御相手致そう!」
「いや、待て又左!」
柴田が来た。一際大きな槍を縦横に振るいだ。前田以上の強さを見せている。
その彼がだ。前田に言うのだ。
「義元殿の相手はわしぞ!」
「権六殿でござるか」
「そうじゃ。織田家きっての武の者であるわしがだ!」
その誇りを言葉にそのまま出してだった。
「このわしが相手をしようぞ!」
「いやいや、わしが!」
しかしだ。前田も負けずにだ。柴田に言い返す。
「わしが義元殿の相手を!」
「何を、わしが!」
「ではわしがじゃ」
「わしでよいな」
二人が言い合っているところにだ。今度はだ。
河尻と佐々が来てであった。それで二人に言うのであった。
「わしが義元殿の御相手を致そう」
「それでよいな」
「何っ、功を奪うつもりか」
「それはずるいぞ」
前田と柴田はその河尻と佐々に言い返すのだった。
「一番の功はこの槍の又左がするのじゃ」
「この掛かれ柴田以外の誰がするのじゃ」
「だからわしがじゃ」
河尻と佐々は同時に言った。するとだ。
お互いに顔を見合わせてだ。今度は二人で言い合うのだった。
「内蔵助、御主抜け駆けをする気か」
「そう言う鎮吉こそじゃ。ずるいぞ」
「いや、御主はそうした抜け目のない者だったのか」
「それはわしの台詞じゃ。まさか御主は」
「ははは、四人共手が止まっていますぞ」
四人が四人でだ。言い合っているとだ。
そこに万見が来てだ。笑いながら話すのだった。
「それではかえって功を奪われますぞ」
「むう、言われてみれば」
「言い合うよりもまずは動く」
「そうじゃな」
「左様。ではそれがしも」
そのだ。万見もだというのだ。
「義元殿の御相手に」
「ぬう、それではじゃ」
「わしもじゃ」
こうしてだ。彼等は言い合いを止めてだった。
それぞれ義元を探す。その中でだ。
氏真はその刀でだ。迫る織田の兵達を切っていた。
その動きは雨の中とはいえ素早く流れる様だ。その剣技の前にだ。織田の兵達は次々と斬られていく。
「な、何じゃ!?」
「今川の若殿は公家ではなかったのか」
「蹴鞠や和歌ばかりしているのではなかったのか」
「それがどうしてじゃ」
「ここまで強いのか」
「麿とてもむのふよ」
氏真はその刀を構えて話すのだった。
「こうしてじゃ。刀も修めておるわ」
「氏真殿は確か」
ここでだ。若い男の声が聞こえてきた。
「塚原卜伝氏が師でしたな」
「左様」
氏真はその声に対して答えた。
「その通りじゃ」
「流石に尋常な者では御相手できませんな」
その声はまた言う。
「さすれば」
「貴殿が相手を務めてくれるか」
「そうさせて頂きます」
若武者だった。その者は。
青い鎧と陣羽織の精悍なその者を見てだ。氏真は問うた。
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