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戦国異伝

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第四十一話 奇襲その十


「雨は恵みの雨ではないか」
「だからでございますか」
「この雨もいい」
「左様ですか」
「その通りじゃ。それにじゃ」
 言葉をさらに加える。その言葉は。
「雨の中の酒宴もよいではないか」
「それもですか」
「よいですか」
「風流ではないか」
 こう家臣達に話すのである。
「雨の中の酒もじゃ」
「そうですな。言われてみればです」
「確かに雨の中で酒というのも」
「またいいものです」
 家臣達も主の言葉に頷く。そしてだった。
 氏真がだ。ここでこんなことを話すのであった。
「暑かったことじゃ。雨で一気に涼しくなるぞ」
「それもありますな」
「若殿の仰る通りです」
 家臣達はまた笑顔になってだ。そうしてだった。
 その笑顔でだ。彼の言葉に頷くのだった。
「涼の中での酒は格別」
「それならばですな」
「戦の前祝いのこの酒」
「楽しみましょうぞ」
「さて、ではよいな」
 ここでまた言う義元だった。
「麿から。歌うぞ」
「畏まりました。それでは」
「殿の歌を御願いします」
「歌はよい」
 まさにだ。和歌をこよなく愛する義元らしい言葉だった。
 そのうえでだ。彼は歌うのであった。
 そのうえで義元は歌い酒を楽しんでいく。彼は今上機嫌であった。
 だがそれでもだ。その時だ。
 信長はその雨を見てだ。こう家臣達に話すのだった。
「これこそ天啓じゃ」
「天啓ですか」
「それですか」
「大雨じゃ」
 見れば信長が話すそばからだった。雨はだ。
 すぐに強くなりだ。そうして土砂降りとなった。
 その雨の中でだ。彼は家臣達に話すのだった。
「この雨じゃ。前も碌に見えんな」
「確かに。見えなくなりました」
「これは今川からもですな」
「そうじゃ。見えなくなったわ」
 まさにだ。それだというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「そのうえで」
「といいますと」
「音もどうじゃ」
 今度は音についての話だった。
 雨は激しくなり雨音も凄まじくなっている。地面を泥にし池にさえなっている。その池にさらに降り注ぎだ。凄まじい音を放っていたのだ。
 信長はその雨音の中でだ。家臣達に話すのだ。
「この音では気付かれぬな」
「左様ですな。この音では」
「到底見つかりません」
「ではこの雨がですか」
「我等の戦を助けてくれますか」
「だからこそ天啓じゃ」
 まさにそうだというのだった。
「この雨は天啓じゃ」
「我等を勝利に導く」
「その天啓ですか」
「降ると思っておった」
 雨の中でだ。信長は不敵に笑う。そのうえでの言葉だった。
 彼はだ。言うのだった。
「この雨はな」
「降るとですか」
「思われていたのですか」
「殿は」
「左様じゃ」
 信長は不敵な笑みのままで家臣達にさらに話していく。
「この季節の今の刻は雨が多いな」
「確かに。この辺りはです」
「とりわけそうです」
「だからじゃ。それであえてこの刻にした」
 攻めるというのだった。信長はだ。
「出羽の調べを受けてな」
「かたじけない御言葉」
 その梁田が応える。彼は土地勘だけでなくだ。そうした雨のことまで調べていたのだ。
「その通りになった。ではじゃ」
「はい、それでは」
「今よりですな」
「一気にですね」
「今川の本陣に」
「うむ、行くぞ」
 信長は言った。そうしてであった。
 織田軍二千は今川五千の本陣に向かう。一気にだった。
 今まさに運命の戦がはじまった。信長は勝利を掴もうとしていた。そしてそれがもたらすものもだ。手に入れようとしていたのであった。


第四十一話   完


               2011・5・11 
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