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戦国異伝

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第四話 元康と秀吉その十一


 藤吉郎だけがだ。言うのであった。
「それでも私は頭を使いますので」
「まあ好きにしろ」
「御前がそれで生き延びるっていうんならな」
「俺達はそれでいいしな」
「仲間は多い方が助かるからな」
 そしてこんなことも言うのだった。
「生きている奴が多い方が楽しいしな」
「戦争だって勝てるしな」
「生きていてこそだからな」 
 だからだというのだ。下っ端である足軽達にとってみればそんなものだった。まず生きるかどうかなのだ。まさにそれが問題なのである。
 それで彼等もこんな話をする。そうしてだった。
「それじゃあ御前も生きろよ」
「いいか、死ぬなよ」
「生きてこそだからな」
「わかっています。それにです」
「それに?」
「今度は何だ?」
 彼のその言葉に問い返す。
「まだ何かあるのか」
「聞いてやるから言ってみろ」
「それで何だ?」
「実はわしの弟も仕官することになりまして」
 こう仲間達に話すのだった。
「この織田家にです」
「というとあれか。足軽か」
「御前みたいにか」
「城の雑用に雇われることになりました」
 それだというのである。
「そちらにです」
「兄貴は足軽で弟は雑用か」
「まあそんなところだな」
「百姓だとな」
「そうですね。百姓ですしね」
 彼は一介の百姓の出だ。それはどうしようもない事実だ。その小柄な身体と共にだ。彼にとってはどうしようもない現実であった。
 そしてそれについて思うところもある。だが、であった。
「けれどこのままじゃ終わりませんから」
「のし上がるか」
「そうするんだな」
「のし上がりますよ。ゆくゆくは武将になりますよ」
 こんなことまで言うのだった。
「織田家の家老にまで」
「じゃあれか。柴田様みたいになるのか」
「それか林様みたいに」
「それはまた随分大きく出たな」
「全くだ」
 皆今の彼の言葉には顔を崩して笑った。
「足軽から家老になるなんてな」
「そんなことできるか?」
「できたら凄いぞ」
「そうだよな」
「夢は大きくといいますからね。ですから」
 まだ言うのだった。
「それを目指します」
「まあ頑張れ」
「平手様の横にいられたらびっくりだ」
「そうなったらな」
「はい、そういうことで御願いします」
 こうしてだった。木下藤吉郎もまた織田家に入った。織田家にまたあらたな人材が加わった。しかしこのことにはまだ誰も気付いていなかった。 
 信長はふとだ。こんなことを前田に対して言った。
「又左、足軽はどうなっておる」
「足軽達ですか」
「そうだ、どうなっておる」 
 こう彼に問うたのである。
「稽古はつけておるか」
「つけてはおりますが」
 ここでだ。前田の言葉は今一つはっきりとしないものになった。
「それでも。どうも」
「弱いか」
「はい、弱いです」 
 今度ははっきりと言ったのだった。 
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