戦国異伝
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第四十一話 奇襲その七
そしてそのうえでだ。家臣達にこう言うのであった。
「焦ることはない」
「ではこのままですか」
「砦は囲んだままにして、ですか」
「兵糧攻めを続けますか」
「それでよい。そこに若し織田の主力が来れば」
その時はだ。どうするかも言う彼だった。
「その織田の軍と戦うまでよ」
「織田は一万五千」
「それに対して我等は二万五千」
「数は我等が優位です」
「負けはしませんな」
「ははは、負ける筈がない」
義元はその口を大きく笑って話した。
「織田を破りそのうえでじゃ」
「あのたわけを殿の御前に引き出し」
「そのうえで臣下にしますか」
「麿の寛容を見せてやるのじゃ」
あえて殺さずだ。それを見せて信長を圧倒しようというのだ。
そのことを狙ってだ。彼は話すのだった。
「そして尾張一国をじゃ」
「手に入れますな」
「そうしてそのうえで」
「そうじゃ。美濃も攻め取る」
その国もだというのだ。義元の狙いは尾張だけではなかった。
美濃まで手に入れだ。そして遂にはだった。
「さすれば最早都は見えるのう」
「はい、尾張と美濃の兵も手に入れております」
「それならば」
「まず尾張の兵を入れて四万となる」
本来の今川の兵二万五千と合わせてである。
「それで美濃に攻め込めるのう」
「はい、斉藤は二万」
「二倍の戦力です」
「それならば織田よりも対するのは容易いです」
「簡単な足し算じゃ。そして斉藤も入れて六万となる」
義元の中でだ。兵の数が合わさっていく。それは彼の中では決まっていることだった。
そしてだ。彼はこうも言うのだった。
「しかし竹千代じゃが」
「松平殿ですか」
「あの御仁は」
「予想以上じゃな」
そうだとだ。満足した顔で言うのであった。
「あそこまで見事な将じゃとな」
「和上が仰っていた通りですな」
「今川を支える柱の一つとなります」
「まだ若いというのに」
「和上は確かに頼りになる」
義元は彼には絶対の信頼を置いていた。彼にとって雪斎は師であり後見人である。そうした意味で絶対の存在と言っていいのだ。
それに加えてだった。元康もだというのだ。
「そこに加えて竹千代ともなれば」
「今川は磐石となりますな」
「都を手に入れ六万以上の兵も手中に収める」
「さすればその我等には」
「最早敵はいませんな」
「そうじゃ。麿は将軍となり」
将軍の継承権を持っている。それならばだというのだ。
「天下を治めるぞ」
「はい、それでは」
「今より」
こう話してであった。彼はこれからのことを上機嫌で考えていた。
その彼にだ。嫡男の氏真が言ってきた。
「して父上」
「うむ、何じゃ」
「この辺りの百姓達がです」
彼等がだ。どうしてきたかというのだ。
「酒を持って来ました」
「ほう、酒をか」
「是非飲んで欲しいとのことで」
「ほほほ、麿が新しい主になるからじゃな」
それでだ。酒を持って来たというのだ。
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