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戦国異伝

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第四十一話 奇襲その三


「忍の者も欲しいのだがな」
「忍の者もですか」
「配下にですか」
「うむ、誰かおらぬものか」
 また言う元康だった。
「織田殿には既に忍がおる」
「あの鷲津にいるですか」
「あの者ですか」
「他にもおる」
 滝川のことに他ならない。彼は今や織田家でも屈指の者になっているのだ。
「それが織田殿の力の一つでもあるのだ」
「その尾張のですか」
「今我等が戦っている」
「その織田殿ですか」
「そうじゃ。忍がいるといないでは全く違う」
 元康はまた言った。
「だからわしも」
「忍もまたですか」
「左様。欲しい」
 その望みを口にする。
「是非共な」
「しかしです」
「この三河には」
 忍の里はない。三河には武士はいても忍はいないのだ。
 だからこそ余計にであった。元康は望むのだった。
「誰か来ればだ」
「雇われますか」
「忍ならば」
「無論その質にもよる」
 それを求めるのは忘れていなかった。松平の臣はただ団結があり忠誠心が篤いだけではないのだ。その質もだ。かなりのものなのだ。
 元康はその彼等の主としてだ。それで話すのだった。
「それなりの忍でなくてはならない」
「我が松平に相応しい」
「それだけの忍をですな」
「何処かにいればいいのだがな」
 こうも言う元康だった。
「若しくは。探すか」
「ですが探すとなるとです」
「今川殿の目がありますので」
 流石に今川の下にいてみだりに家臣を抱えるのははばかれる。いぶかしまれることは言うまでもない。だからそれはというのである。
「それはです」
「残念ですが」
「わかっておる」
 元康もだ。それはわかっていた。
 それでだ。こう述べるのだった。
「では。待つしかないか」
「その時が来るのをですか」
「忍を雇える時を」
「その時は来るだろう」
 その時までだ。どうするかというのだ。
「待つ。暫くな」
「左様ですか。そのこともまた」
「待たれますか」
「そうするとしよう」
 彼は今は待つのだった。戦のこともこれからのこともだ。待ちそのうえでだ。時期を待つのだった。彼が動けるその時をだ。
 織田軍は熱田でだ。戦勝の祈願をした。信長が先頭に立ち祈りを捧げる。彼の後ろに二千の青い鎧と兜の兵達が集っている。
 信長の祈りは深く強いものだった。頭を深く垂れている。それが終わってからだ。
 彼はだ。頭を上げた。それからだ。
 己の兵達に身体を向けてだ。こう言うのだった。
「ではだ」
「はい、それでは」
「今より」
「今川を討つ」
 まさにだ。そうするというのである。
「そうする」
「わかりました。それでは」
「こちらから攻めて」
「そうだ。今から一気に討つ」
 信長はまた兵達に告げた。 
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