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戦国異伝

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第四十話 桶狭間へ十


「念仏の力じゃ」
「念仏のですか」
「といいますとそれは」
「どういった力でしょうか」
「信仰になる」
 念仏をだ。そう言い換えたのである。
「それだ」
「あの信仰の力ですか」
「それが一向宗の力の源」
「最大の力なのですね」
「あの力にどうするか」
 それを強く話す元就だった。
「織田信長。どうするかだ」
「それが最大の関門になるのですか」
「織田信長にとって」
「まさにですね」
「そういうことになる。まだ双方が衝突するかどうかはわからぬ」
 そこまではだ。元就にもだった。言い切れなかった。
「しかし織田の覇業に本願寺が邪魔となれば」
「若しくは本願寺が己の持っているものを脅かされると思えば」
「その時点で、ですね」
「双方は」
「殺し合う」
「その場合はかなり血生臭い戦になる」
 元就はそれは絶対というのだ。
「間違いなくな」
「そういえば越前ではかなり恐ろしい戦になっていますね」
「朝倉との戦は」
 そのことはだ。彼等も知っていた。それだけではなかった。
「近畿でも時折起こっていますし」
「越後でもまた」
「その近畿が問題だ」
 そこがだというのだ。まさに近畿がだ。
「織田は間違いなく近畿も手中に収めようとするが」
「その近畿で本願寺とぶつかる恐れがありますか」
「あの場所で」
「石山もある」
 元就はその地を指し示した。
「石山については知っておろう」
「はい、まさにその本願寺の本拠地です」
「城です」
「あの場所こそが」
「その近畿よ」
 何度もだ。その近畿が話されるのだった。
「織田の天下がどうなるかはだ。本願寺次第だ」
「本願寺とぶつかればその天下が揺らぐ」
「そうなのですな」
「本願寺に比べれば武田も上杉もどうということはない」
 今天下でその精強さを言われている両家ですらだというのだ。
「両家は確かに強く家臣達もまとまっているがだ」
「本願寺の様な念仏の力はない」
「左様ですね」
「信仰はありませんか」
「そういうことじゃ。この国にあるのは大名だけではない」
 このことが大事なのだった。天下にあるのはだ。
 大名だけでなく他にも様々な勢力があるのだ。そしてその中にはだ。信長を闇から狙う、そうした者達もいた。だが元就はその彼等には気付いていない。しかしだった。
 夜の空を見ながらだ。また言ったのである。
「夜の闇が妙じゃな」
「夜のですか」
「闇がですか」
「端の部分が蠢いておる」
 こう言うのである。
「この様なことははじめてじゃ」
「闇が動く」
「妙ですな」
「今は動いてはおらぬな」
 夜空を目をこらして見ながらの言葉だった。
「わしの気のせいかもな」
 こう言ってだ。彼は己の城に帰った。家臣達もだ。
 彼は信長の勝ちを読み取った。そしてそれからのことも。夜空の青い将星の輝きは確かに強くなっていた。だが同時にだ。闇も蠢いていたのだった。


第四十話   完


                2011・5・4 
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