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戦国異伝

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第四十話 桶狭間へ六


「来ておるな」
「はい」
 すぐにだ。信長の言葉に応えてだ。梁田が来た。
「こちらに」
「今川の状況はわかるか」
「まず先陣は鷲津の砦にあり」
 まずは先陣の話が為される。
「何重にも取り囲んでおります」
「丸根はどうなっておるか」
「そちらも囲まれております」
 丸根もだとだ。梁田は信長に答えた。そのうえでだ。
 彼はだ。今川の軍全体の陣についても話すのだった。
「その先陣が頭となりです」
「頭か」
「はい、蛇の頭です」
 それだと話す梁田だった。今川の陣は蛇の頭だとだ。
「まさにです」
「蛇の頭じゃな」
「そうです、そして腹にです」
「今川の本陣があるか」
 即ちだ。そここそがだ。
「蛇の心臓じゃな」
「桶狭間にあります」
 そこだというのだ。心臓の位置はだ。
「そこで今川は陣を張っております」
「やはりあの場所か」
 桶狭間と聞いてだ。信長はだ。
 面白そうに笑ってだ。こう言うのだった。
「あそこは休みやすい場所じゃ」
「そうですね。山と山の間で窪みになっていますから」
「休むにはよい。しかしじゃ」
 そうした場所だからこそというのだ。信長は楽しげな笑みを浮かべて話していく。
「あそこには多くの兵は置けぬ」
「そしてそこに」
「向かうとしよう。祈願の後でな」
 それは忘れなかった。祈願はだ。
 そしてそのうえでだった。彼はだ。
 あらためてだ。梁田に話すのだった。
「出羽、御苦労だった」
「有り難き御言葉」
「あの場所に来ると思っておった」
 またこう話す信長だった。その桶狭間についてだ。
「休むのあそこしかないからのう」
「では殿、祈願の後に桶狭間に」
「そちらに向かい」
「そうしてですか」
「今川の本陣をすぐに襲う」
 そうするとだ。信長は家臣達に話すのだった。
「わかったな」
「だからですか」
「鉄砲も長柄槍もいらないと」
「そして弓も」
「一気に攻めて一気に勝つ」
 信長は簡潔に述べた。
「そうするぞ」
「畏まりました」
「そして勝ちを」
「我等の手に」
「この戦はじゃ」
 信長は家臣達に言う。
「必ず勝つ」
「勝てるのではなくですか」
「勝つのですね」
「負ける根拠がない」
 こうまで言ってみせるのである。
「何一つとしてな。それではじゃ」
「今よりですな」
「熱田に祈願を」
 こうしてであった。信長は家臣達と共に戦の勝ちを祈願するのだった。そして丁度その頃だ。遠く西の安芸においてだ。白い顎鬚を生やし緑の服を着た老人がだ。夜空を見上げて言うのであった。 
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