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戦国異伝

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第三十九話 なおざりな軍議その六


 その彼にだ。柴田が声をかけた。
「新五郎殿」
「うむ、何じゃ」
「不満に思われてますな」
「無論じゃ。これではじゃ」
「どうなるかわからないと」
「そうじゃ。とにかく攻めるにしても篭城するにしてもじゃ」
 どちらにしてもだというのだ。
「決めねば何にもならんぞ」
「確かに。その通りですな」
「それで何もしないでどうするのじゃ」
 また言う林だった。
「今の殿はわからん」
「ではどうされますか?」
「どうするかとは?」
「休まれますか?」
 林に対して問う柴田だった。
「それでは」
「ううむ、殿はそう仰る」
 そうならばだというのだ。林もだ。
 憮然としているがそれでもだ。こう言うのだった。
「では今はじゃ」
「休まれますな」
「そうするしかない」
 林も言った。
「仕方ないことじゃ」
「では。今宵は」
「全く。殿は何を考えておられるのか」
 それがわからないといった顔のままの林だった。
「それがわからん」
「しかし殿のお言葉ならば」
「仕方ない」
 何だかんだでだ。林は揺れ動いてはいなかった。考えは確かだった。
 それでだ。今度はこう言うのだった。
「寝るとするか」
「また明日ですな」
「そうじゃな。では今は休むとしよう」
「はい、それでは」
 柴田は林に笑顔で頷いてだ。そうしてだった。
 彼だけでなく他の家臣達も休むのだった。こうして部屋には誰もいなくなった。しかしここで、であった。
 可児はだ。何やら楽しむ顔でだ。部屋を後にする時にこう言うのだった。
「さて、これからが面白いかものう」
 こう言ってその場を後にするのだった。だが彼と慶次以外の殆んどの面々はそうしたものを感じてはいなかった。本能的なものはだ。そこまで鋭くなかったのだ。
 織田家の方針はこの夜は決まらなかった。少なくとも家臣達はそう思った。しかしであった。
 織田家に戻ったばかりの信行はだ。己の部屋で静かに茶を飲みながらだ。こう小姓達に言うのであった。
「茶はよいのう」
「はい、ですが」
「また今宵は随分茶を飲まれますが」
「どうしてでしょうか」
「うむ、兄上のことだ」
 兄である信長のことだとだ。彼は言ったのだ。
「話は聞いた」
「訳がわかりませぬ」
「全くです」
 家臣達もだ。いぶかしみながら言うのだった。
「一体何を御考えなのか」
「どうして何も決められないのか」
「それがわかりませぬ」
「そうじゃな。実はわしもじゃ」
 信行自身もだ。そうだというのである。
「わからん」
「勘十郎様もですか」
「そうなのですか」
「うむ。しかし茶を飲まれたと聞いてだ」
 ここで彼が言うのは茶のことだった。その茶を彼自身も飲みながらだった。 
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