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戦国異伝

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第三十八話 砦の攻防その五


「河越もじゃ」
「あの北条殿の」
「あの戦は見事じゃった」
 唸る様にして出した言葉だった。
「まさに相模の獅子よ、北条殿は」
「十倍の敵に夜襲を仕掛けてでしたね」
「あの戦での勝ちがあるからこその今の北条殿じゃ」
 そこまでの戦だったのだ。まさにだ。
「あれは敵を油断させたうえでの夜襲じゃったが」
「今度はです」
「まず先に思いきり攻め休んだと見せかけてじゃな」
「左様です、それではその様に」
「この砦は必ず陥とす」
 そうするとだ。断言する雪斎だった。
「よいな。そしてじゃ」
「はい、清洲に」
「そうするとするぞ」
 こうしてだ。鷲津の砦への夜襲が決まった。昼はそのまま攻められ暫く経ってからだ。真夜中になってからのことであった。
 元康はだ。あからじめ声をかけていた精鋭達にだ。こう告げるのだった。
「よいな、それではじゃ」
「はい、今からですな」
「攻めますか」
「わしも共に行く」
 元康自身もだ。自ら指揮にあたるというのだ。
 実際にだ。彼は既に兜を被っている。鎧だけではない。その姿でだ。
 その精兵達に命じたのだ。こうしてであった。
 彼等は砦に向かう。砦はすぐだった。 
 だが、だ。その左右からだ。
 突如として何かが来た。それは。
「!?何だ!?」
「風!?いや、違う!」
「つっ!」
 攻撃が当たった。血が流れるのがわかる。
 そしてだ。その次にはだ。
 上から次々に襲い掛かって来る。それは。
「忍か!」
「織田方の忍か!」
 それだった。その忍達によってだ。
 彼等は傷を負いだ。前に進めなくなった。そしてさらにだ。
 彼等の陣の方からだ。火が起こったのだ。それを見てだ。元康はすぐに悟った。
「ぬかった、織田方の夜襲だ」
「奴等のですか」
「それですか」
「そうよ、ぬかったわ」
 彼もだ。こう言うしかなかった。
「まさかだ。我等が攻められるとは」
「元康殿、ここはどうされますか」
 今川の部将の一人が彼に問うた。松平の主である元康も今は今川の臣下なのだ。だから部将が共にいて不思議ではないのだ。
 その部将がだ。彼に問うのである。
「前に進み砦を陥としますか、それとも」
「むう、ここは」
 前に進めなくなった。さらにだ。
 後ろの陣が燃えている。こうなってはだ。
「下がるしかあるまい」
「そして陣をですね」
「左様、火を消しさらなる夜襲に備える」
 そうするというのだった。
「そうする」
「わかりました。それでは」
「すぐに」
「無念だ」
 こう漏らす元康だった。しかしだ。
 燃える陣を見てはだ。どうしようもなかった。こうしてだった。
 彼等はすぐに陣に戻る。陣はかなり乱れていた。
 足軽達が夜の闇の中を左右に動き回っている。その動きはだ。
 ただ慌てふためいているだけだった。それを見てはだ。
 元康は顔を顰めさせる他なかった。だがそれは一瞬でだ。
 その足軽達にだ。叱咤を浴びせるのだった。 
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