戦国異伝
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第三十六話 話を聞きその十一
「丹念な手入れが必要かと」
「そうじゃのう。今から楽しみじゃ」
「してそのうえで上洛もですな」
「それもまた」
「そうよ。都じゃ」
家臣達にまた応えるのだった。
「都を元の雅な場所にしようぞ」
「ですな。華やかな都に」
「そうしましょうか」
そんな話をしてだ。彼等は悠然と兵を進める。
彼等は既に勝っているつもりだった。しかしである。
その今川の進軍を聞いてだ。越後ではだ。
春日山城の主の間において謙信がだ。二十五将達に話すのだった。
「これは危ういです」
「織田がですか」
「尾張が」
「いえ、違います」
織田でないとだ。謙信は言い切った。
「今川殿がです」
「今川殿が危ういのですか」
「左様ですか」
「はい、あのままならばです」
どうかというのである。謙信のその言葉は真剣なものだ。
「敗れます」
「それは何故でしょうか」
本庄が主に対して問うた。
「何故今川殿が危ういのでしょうか」
「慢心です」
それによるというのである。
「慢心、戦において最もあってはならないことです」
「今川殿にはそれがある」
「だからですか」
「はい、戦においては慢心すれば必ず敗れます」
それは絶対だというのだ。戦の場に生きる謙信だから尚更だった。今の言葉は何よりも強くそして説得力のあるものであった。
「例え多くの兵があろうとも。それでは」
「敗れるのは今川殿」
「ですか」
「左様です。今川殿はそれに気付いていません」
しかもだ。自分ではわかっていないというのだ。
そうしたことを踏まえてであった。謙信は言うのであった。
「それで敗れぬ筈がありません」
「そうなのですか」
「あの今川殿が敗れる」
「そうなりますか」
「そしてです」
今川が敗れてだ。それで終わりではないというのだ。
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