戦国異伝
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第三十六話 話を聞きその三
「殿につくか去るか。それをな」
「ではじゃ。閉じようぞ」
森が最後に言ってだ。そうしてだった。
全員目を閉じたのであった。それから半刻だった。
ゆっくりと目を開ける。するとだ。
誰も去ってはいなかった。全員いた。それどころかだ。
慶次に至ってはだ。寝てしまっていた。今にもいびきをかきそうだ。
その彼を見てだ。柴田はだ。
すぐにだ。拳をその頭に見舞ったのであった。
「何をしておるか」
「痛っ、何でござるか」
「幾ら何でも寝る奴がおるか」
こう言ってだ。座ったまま胡坐をかいて寝ていた慶次を殴ったのである。
そのうえでだ。また言う柴田だった。
「去る去らない以前の話じゃ」
「いやいや、わしは最初から残るつもりでござるから」
それでだと話す慶次だった。
「寝ていたのでございます」
「それでだというのか」
「それならば、寝ておこうと思いまして」
「全く。いつもいつも御主は」
「しかし誰もおりませぬな」
慶次郎はここで部屋の中を見た。それでだ。
誰がいるかどうか確かめるとだ。一人も出てはいなかった。見事全員揃っている。
それを見てだ。彼はまたこう言うのであった。
「よいことですな」
「寝ていた者が言うのか」
「言ってもいいのではないですか?」
「まだ言うか、全く」
「しかしそれがし殿と共に戦いますぞ」
それは言う慶次だった。
「しかとです」
「ふん、御主はもう少し真面目にやるのじゃ」
「いつも真面目でござるが」
「真面目に見えるか。しかしじゃ」
柴田は何だかんだで慶次の話を聞いて周りを見る。するとだ。
確かにだ。誰もがいた。本当に誰も去ってはいなかった。
そしてだ。林もだ。こう言うのである。
「今更のう。違う主に仕えることなぞな」
「左様、我等の主は殿だけじゃ」
林通具も兄に続く。
「今川になぞ。仕えられぬわ」
「ならばじゃ」
島田もいる。本当に誰も去ってはいない。
「殿と最後の最後までいるだけよ」
「そういうことじゃな。それではじゃ」
柴田は彼等の言葉に満足した笑みを浮かべた。そしてであった。
同僚達にだ。また言ったのであった。
「よいぞ、では我等最後の最後までじゃ」
「殿と共に」
「生きて死ぬとしよう」
「わしもなのじゃ」
柴田はその満足した笑みで話す。
「正直殿以外に仕えるつもりはない」
「織田家以外に」
「誰一人としてですな」
「それを見たかったのじゃがな」
柴田は唸るようにして述べる。
「ううむ、まことに一人も去らぬとはのう」
「権六殿も驚かれたのですか」
「驚いたから言うのじゃ」
丹羽にもこう返す。
「全員とはのう」
「今更ですしな」
「その通りでござる」
佐々と金森も言う。
「殿と一緒にいれば色々とあります」
「今で去ってはそれこそ」
「それもあるのう。殿はまことに奇矯な方よ」
生真面目どころか糞真面目と言うに相応しい柴田が言うと余計にその通りだと思えることだった。そうした意味で彼は主とは違っている。
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