戦国異伝

「十八般を極めさらにじゃ」
「上を目指されますな」
「まさに天下一の漢になられますな」
「わしは目指すぞ」
　まさにだ。そうするというのである。
「何があろうともな」
「ではその殿と共にです」
「我等もです」
「最後の最後までお供します」
「うむ、頼んだぞ」
　こんな話をしてだ。そうしてだった。
　彼等は信玄の下に馳せ参じた。そのうえで今は時を待つのだった。
　武田が今川の行く末を見ていたその頃。北条ではだ。
　主の氏康がだ。難しい顔で家臣達に話していた。
「危険じゃな」
「はい、全くです」
「今川殿は勝たれると思っておられるようですが」
「しかし。楽に勝てはしませんな」
「やはり」
「織田の兵も多いです」
　北条の家臣達はだ。織田の兵の数から今川の苦戦を見ていた。
　そしてだ。彼等はこう話すのだった。
「その織田と正面からぶつかれば」
「今川殿もただでは済みませんが」
「一捻りとはいきません」
　それはないというのだ。
「とてもです」
「今川殿がどう思われているかはわかりませんが」
「織田を侮っておられるな」
　そう見ている氏康だった。
「それが危うい」
「やはりですか」
「そうなりますか」
「そうじゃ。織田は侮れぬ」　
　信玄と同じことをだ。氏康も言うのであった。
　その向こう傷のある、それでも整った顔に深刻なものを漂わせてだ。彼は家臣達に話していく。
「織田信長は傑物よ」
「うつけではありませぬか」
「そうではありませぬか」
「全く違う」
　こうまで言うのであった。断言であった。
「うつけが父親の死後瞬く間に尾張を統一できるか」
「そういえば。本当にすぐにでしたな」
「兵を起こしすぐにでした」
「尾張を統一してしまいました」
　家臣達も氏康の話でだ。そのことに気付いたのである。
「そして統一すれば見事に政をしているとか」
「尾張はかなりいい国になっているか」
「元々土地は肥え町もよい」
　氏康は尾張についてだ。こう述べた。これは本当のことである。
「その尾張をじゃ。さらに見事にしておる」
「それが織田ですか」
「織田上総介だというのですか」
「そうじゃ。やはり傑物じゃ」
　信長をだ。あくまでこう評する氏康だった。
「その者を侮ってはじゃ。痛い目に遭うのは今川殿じゃ」
「では。このままでは」
「今川殿は敗れますか」
「敗れるのはあちらなのですか」
「そう思えるな、わしには」
　実際にそうだと述べる氏康だった。
「そして問題はその後じゃ」
「その後といいますと」
「今川殿が敗れ東海がどうなるか」
「そのことでございますか」
「そうじゃ、それじゃ」
　まさにだ。それだと答える氏康だった。