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戦国異伝

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第三十四話 今川出陣その五


「それでしょうか」
「妖か」
「それだというのですか?」
「いや、よりどす黒い」
 色で表した。その色はというと。
「闇じゃな」
「闇、ですか」
「それを感じる」
 色はだ。それだというのだ。
「闇の色をな」
「今の百地殿はならば」
「迂闊に寄ってはいけませんな」
「どうやら」
「じゃから伊賀も離れる」
 それも理由にあるというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「その三河にですね」
「暫くしたら向かおうぞ」
 こう話してだ。服部は己が仕えるべき主を見るのであった。
 伊賀でも動きがあった。そして尾張ではだ。信長は清洲において滝川と二人で話をしていた。信長の方から言うのだった。
「ふむ。左様か」
「はい、甲賀の者の多くがです」
「わしに従うというのじゃな」
「殿の兵になるとのことです」
 こう話す滝川だった。
「忍の者として」
「よし、わかった」 
 話を聞いてだ。信長は確かな顔で頷いた。
 そのうえでだ。彼は滝川にこうも話した。
「では甲賀者はだ」
「殿の忍にですな」
「忍の者も必要じゃ」
 確かな顔でだ。言う信長だった。
「そなたの他には小六も忍の術を使えるがな」
「あの者が使えるのは少し意外です」
 滝川は静かに述べた。
「多少騒がしいので」
「確かにのう。忍というよりはじゃ」
「海賊を思わせます」
 そちらだというのである。
「しかしあれで忍としては」
「中々やりおるわ」
「左様です。それに慶次もです」
「あ奴もあれで器用じゃ」
 慶次の意外な一面である。実は彼は忍の術にも長けているのだ。大柄で派手好きな傾奇者だがそうしたこともできるのである。
「しかし今はじゃ」
「大学殿の砦に行かせなかったのは」
「それも考えておる」
 慶次をそこに行かせなかったことについての言葉だった。
「しかとな」
「左様ですか。既にですか」
「うむ。とりあえず忍の者が加わった」
 それをよしとしてだ。さらに話す信長だった。
「すぐに東海に放て」
「駿河からこの尾張まで」
「そうじゃ。道をくまなく見る」
 忍の者を使ってだ。そうするというのである。
「今川の動きをな」
「それでは。その動きを見ながら」
「さて、それではじゃ」
 滝川の言葉に最後まで答えなかった。それはあえてかどうかは滝川にはわからなかった。もっと言えばわからせなかった。
 信長は滝川にさらに話した。
「既に尾張の東の地理はわかった」
「完璧にですね」
「その通りじゃ。全て頭の中に入れた」
 そうしたというのである。 
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