戦国異伝
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第三十一話 尾張への帰り道その五
「それがしもいましたので何とかなりましたが」
「久助一人となるとです」
林通具はさらに話す。
「やはり。流石に」
「危ういのでは」
「そう思うか」
だが、だった。信長はここで楽しげに笑ってだ。こう彼等に述べるのだった。
「一つ忘れておるな」
「一つとは」
「といいますと」
「久助の出は何じゃ」
彼がここで話すのはこのことだった。
「それは知っておろう」
「忍です」
「そうでございますが」
「そうじゃ。忍じゃ」
それをまた話す信長だった。
「そもそも刺客のことを調べたのはじゃ」
「忍の者達を使って」
「そうしたというのですね」
「つまりは」
「そうじゃ。それでこそじゃ」
そのことを話すのだった。つまりだ。
「久助は一人ではないのじゃ」
「では。一人で行かせてもですか」
「問題はない」
「そうなりますか」
「その通りじゃ。これでわかったな」
あらためて二人に話す。二人もだ。
納得した顔で頷いてだ。そのうえで主に話す。
「ですな。見落としておりました」
「久助が忍の者であることを」
「一つ一つ覚えておくのじゃ」
信長はその彼等に諭す様に話す。今度はそうしたのだ。
「そうしたこともな」
「そうですな。それは」
「うっかりしておりました」
「全く。それを忘れているとは」
「それがしもまだまだですな」
「まあ覚えればよい」
それでいいという信長だった。
「それはな。そしてじゃ」
「後は久助に任せて」
「そうしてですな」
「そうじゃ。後はここで茶会を開くぞ」
こうしてだった。彼はそのまま茶会を開きだ。実際に家臣達と共に茶を楽しむのであった。
そして暫くしてだ。その滝川が帰ってきた。信長は彼にすぐに気付きこう声をかけた。
「おお、速いのう」
「馬を飛ばしてきましたので」
「忍の足ではないのか」
「それは今は使いませんでした」
滝川は主に対してこう述べた。
「あくまで馬を」
「そうなのか。まあ必要な時以外は馬の方がよいな」
「はい。余分に疲れませぬ故」
「そうじゃ。そしてじゃ」
信長はだ。滝川に再度尋ねた。
「どうだったのじゃ、按配は」
「茶会に誘ったのですが」
「来なかったか」
「驚いて慌てて逃げ去ってしまいました」
そうなってしまったというのである。逃げたとだ。
「残念でしょうか」
「残念じゃな、確かに」
その通りだとだ。信長は真顔で述べた。茶をその手に持ってだ。
「わしとしては是非にと思ったのじゃがな」
「どうも殿に察せられているとわかって。それで逃げてしまいました」
「肝が小さいのう。命を狙うならじゃ」
どうすればいいのか。信長はそれをしかと言うのだった。
「こうした茶会に出ねばじゃ」
「そうしてそこで命を取れというのですね」
「そうしなくて何が刺客じゃ」
咎める様な声ですらあった。
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