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戦国異伝

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第三十一話 尾張への帰り道その二


「兄妹が夫婦になるようなものじゃな」
「そうじゃのう。ねね殿は強いしのう」
 今度は慶次が出て来てだ。こんなことを言った。
「わしが叔父御にうんと塩辛い梅干を食わせて笑っておったら棒を投げられてそれが見事額に当たったことがあったわ」
「あれは御主が悪いわ」
 前田はすぐに怒った顔になって歳の離れていない甥に言った。
「あんな塩辛い梅があるか」
「それがいいのではありませんか」
「よくないわっ」
 前田の声は明らかに怒ったものだった。その声で甥に返す。
「わしを塩漬けにするつもりか」
「また大袈裟な」
「では御主が食ってみるか」
「いやいや。それがしは味噌の方がよいので」
 笑ってそれはいいとい慶次であった。
「塩の方は」
「全く。この悪戯小僧が」
「いや、しかし小僧とはいっても」
 木下がここで前田と慶次に対して言ってきた。
「又左殿と慶次殿の年齢は変わりはしませぬが」
「それでもじゃ。こ奴は悪戯小僧じゃ」
 馬上でだ。慶次を見据えながら言う前田であった。
「全く。幾つになっても変わらぬわ」
「全くよの。わしもこいつは子供の頃から知っておるが」
 佐々もだった。慶次を見ながら話すのだった。
「その頃から。悪戯ばかりしておったわ」
「それがしの趣味でござる」
「そんな趣味はいらんわ」
「全くじゃ」
 前田と佐々は二人になって慶次に怒った声で告げる。
「幾つになっても変わらん男じゃ」
「どうしたものか」
「どうも慶次殿というのは」
 木下秀長が兄の横で言う。
「童心を忘れぬ方の様ですな」
「童心か」
「それだというのか」
「はい、それでございます」
 こう同僚達にも話す。
「そうした方の様ですな」
「つまりずっと悪戯小僧のままか」
 前田は童心と聞いてそう考えたのだった。
「どうしようもない奴だというのじゃな」
「いや、どうしようもないかというとそうではありませぬ」
「違うのか、それは」
「はい。むしろいいことでございます」
 こう前田の他の同僚達にも話していく。
「それは」
「よいのか?」
「悪戯ばかりしおるのに」
「それがよいというのか」
「童心もまた大切なものでございますよ」
 木下秀長だけがだ。笑って言うのである。
「思わぬものを見ることもできますし」
「そういえば慶次は時として凄い閃きを見せるのう」
「うむ、特に戦の場でな」
 家臣達も彼のその言葉を受けて考えていってだ。慶次を見ながらだ。
「それもまた童心か」
「では。この男のそうしたところもまた」
「力になるのじゃな」
「その通りじゃ。確かに慶次は不便者よ」
 信長は家臣達の話が一段落したのを見届けてからだ。そのうえでこう口を開いて言うのだった。まずは不便者だとである。
「しかしじゃ。その悪戯の心がよいのじゃ」
「それが童心だからこそ」
「左様ですか」
「明の学者の言葉だったでしょうか」
 ここで言ったのは林である。 
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