| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十九話 剣将軍その六


「しかしわしはじゃ」
「公方様を御守りしますか」
「あくまで」
「それが織田の為にもなるしあの方の為にもなる」 
 将軍を立ててだ。そのうえでの言葉であった。
「それでよいな」
「それがしが思いますにです」
 ここで信長に述べたのは島田であった。
「そうあるべきでございます」
「幕府を助けることがよいのじゃな」
「はい、権威は必要なものです」
 そのことはだ。否定しないのであった。
「織田家の天下への大義名分にもなります」
「大義か」
「やはりそれは欠かせぬものでございますから」
「そうじゃな」
 信長もだ。彼のその言葉に頷くのであった。
 そしてであった。ここでこう話した。
「幕府と。さらに上のやんごとなきのう」
「朝廷ですね」
「帝もまた」
「そうじゃ。わしは一の人になるがそれでもじゃ」
「幕府や朝廷はですね」
「ないがしろにはできない」
「織田家は元々宮司の家じゃ」
 そこからはじまったのである。織田家は本来武士ではないのだ。宮司からはじまってだ。尾張の守護にまでなったのである。
「朝廷はどうしてものう」
「ないがしろにはできませんな」
「どうしても」
「神輿のままであるということは普遍じゃがな」
 ここでも現実を入れて話す。信長は己の考えにだ。そうした現実も入れてだ。そのうえで話をするのであった。
「だがそれでもじゃ」
「朝廷は盛り立てる」
「そうされますか」
「今のあの無惨な都も御所も何とかせねばならん」
 具体的な話に入った。
「栄えた街にして奇麗な御所にしなければならんからな」
「ではその為には」
「再びですね」
「上洛されますな」
「その時は」
「わしが天下に覇を唱える時じゃ」
 まさにその時だとだ。信長は言い切った。
「その時なのじゃ」
「左様ですね。それではです」
「まずは尾張に戻り」
「そのうえで」
「力を蓄え上洛するぞ」
 信長は既にそのことを視野に入れている。そのうえで動いているのだ。
 そんな話をしてだ。最後にだった。
「ではじゃ。翌朝にじゃ」
「都を発ち」
「尾張に戻りますか」
「そうする。長い旅だったのう」
 また笑顔になる。信長は落ち着いた笑顔であった。
「そして楽しいものじゃった」
「殿、近畿の川と海はわかりました」
 九鬼が楽しげに話す。
「とりわけ堺は」
「わかったと申すか」
「はい、堺の海、瀬戸内は見事な海でございますな」
「その海もやがてはじゃ」
「わかっております。その時はです」
 水軍の彼がだ。話すことは。
「存分に暴れてみせましょう」
「その暴れる姿、見せてもらうぞ」
「是非共」
 そんな話をしてだった。彼等は今は休んだ。そうして翌朝彼等は尾張に向けて発つのだった。
 その彼等をだ。闇の中から見る者達がいた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧