戦国異伝
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第二十八話 都にてその七
「あの者達は相手にするな」
「向こうから来ればどうされますか」
「その場合は」
「こちらは」
「変わらん。このまま進む」
信長の言葉は変わらない。
「よけることはない」
「そうされますか」
「このままでござるか」
「進まれますか」
「そうじゃ。よいな」
また告げる信長だった。
「このまま進むぞ」
「では殿」
金森が鋭い目になって信長に問うてきた。
「あの者達が歯向かって来た場合は」
「その場合はか」
「あの通り。既に得物は持っております」
見れば彼等はそれぞれ薙刀なり金棒なりを持っている。その威力がどういったものかは見ただけでわかる。僧兵は得物もいいのだ。
「向こうはいざとなれば」
「その場合はわしも自ら剣を抜く」
信長もだった。その目が鋭いものになった。
「そうする」
「そこまでお覚悟を」
「何時でも何に対しても覚悟はしておくことじゃ」
実にだ。信長らしい言葉であった。
「今も同じじゃ」
「では」
「このままでございますな」
「進まれますか」
「そうじゃ。進むぞ」
言葉にも行動にもだ。何のぶれもなかった。
そしてそのまま進む。それを見てだ。
僧兵達もだ。覆面の奥の目を鋭くさせて言うのであった。
「あの者達は何じゃ?」
「やけに青い服じゃのう」
「青というとじゃ」
僧兵の中の一人がここで言った。
「織田かのう」
「織田というと尾張のか」
「あのおおうつけか」
「そういえば今この都に来ておるというが」
「あの織田か」
僧兵達は信長についてだ。あれこれと話をはじめた。
「それで我等を見てもそのまま進むのか」
「我等を延暦寺の僧兵と知らないのか?」
「いや、知ってだとするとだ」
「あの男、何処までうつけなのだ」
「まさにおおうつけなのか」
信長をそうとしか見ていなかった。そうしてそのうえでだ。
彼等はだ。また話をするのであった。
「どうする、それで」
「あのうつけとぶつかるか」
「そうするか」
「そしてぶつかれば」
その時はどうするのか。それも話すのだった。
「相手をしてやるか」
「そうだな。我等の力見せるとしようぞ」
「延暦寺の僧兵の力をな」
ただ仏の権威を背にしているだけではなかった。彼等はどれも大柄でしかも筋骨隆々としている。その力も腕もかなりのものなのだ。
「武蔵某弁慶を生んだのも延暦寺ぞ」
「その延暦寺の僧兵の力見せてやるか」
「我等には平家も鎌倉幕府もおいそれと手を出せなかったのじゃ」
「今の幕府もな」
とかくだ。都の傍に勢力を張りだ。時の権力者達を悩ませてきたのがこの延暦寺の僧兵達なのだ。それ故に彼等は自信に満ちている。
その自信を確かめてだ。あらためてであった。
彼等は信長一行を見据える。そのうえで進もうとする。
いかしであった。その彼等のところにだった。
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