戦国異伝
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第二十七話 刺客への悪戯その九
「しかしじゃ。そうもあろうかとじゃ」
「はい、もう一陣あります」
「その者達ならばです」
「必ずやってくれます」
「その言葉信じさせてもらうぞ」
義龍は厳しい顔のままで述べた。
「是非共な」
「いえ、殿」
だが、だった。ここで異議を呈する者がいた。
その者はだ。その場からこう主に話してきた。
「次もです。果たせぬでしょう」
「半兵衛か」
竹中だった。彼が言ったのだった。
「そなたは果たせぬというのか」
「はい、どうやら我等の動きは全て織田殿に見抜かれています」
「全てというか」
「はい、全てです」
まさにその通りだというのである。
「ですから次もです。間違いなく」
「ではそなたはじゃ」
義龍はその竹中に対して問うた。彼を見据えながら。
「どうすればよいというのじゃ」
「織田殿に小細工は通じませぬ」
「では止めよというのか」
「はい、それはしても無駄です」
また言う彼だった。
「ですからここはです」
「刺客達を戻せというのか」
「しても無駄なことはしないに限ります」
見切ったような言葉だった。まさにそういったものだった。
「ですから。今すぐにでもです」
「馬鹿な、次こそはいける」
「織田も刺客が二度も来るとは思っていまい」
「それならばじゃ」
「今度もいける筈じゃ」
だが、だった。義龍の周りの者達は口々にこう言うのだった。そしてそのうえでだ。竹中に対して咎める様な口調で言うのであった。
「そなたは織田を買い被り過ぎておる」
「あのうつけの何を見るのじゃ」
「そうじゃ、見誤っておるわ」
彼等のこうした言葉を受けてだ。義龍も言うのだった。
「そうじゃな」
「殿もそう思われますな」
「あの者はただのうつけ」
「今度はまぐれでございます」
「それならば」
「そうじゃ。今度はやれる」
義龍こそ美濃で最も信長を軽んじている者だった。それならばだ。こう言うのも道理だった。
その彼がだ。決めたことは。
「続ける」
「はっ、わかりました」
「それではこのまま」
「刺客達を向かわせましょう」
家臣達も頷いてだった。結局刺客達はそのまま放たれることになった。だがこの場には竹中だけでなく三人衆、それに不破もいた。彼等は自分達の部屋に戻ってからだ。五人であらためて話をするのだった。
「あの刺客達はだ」
「うむ、そうだな」
「成功せん」
「失敗するに決まっておる」
三人衆が不破のその言葉に応えて述べた。稲葉山の一室での話である。
「織田殿は既に刺客のことを読んでおるぞ」
「だから堺でしくじったのだ」
「それでまた送ったとしても」
「そうじゃな。しくじる」
不破は袖の中で腕を組み難しい顔で述べた。
「そうなるしかない」
「殿はそれがおわかりになられぬか」
「政や戦は中々のものだが」
「謀はか」
三人衆はそこに義龍の限界を見た。謀を不得手とするところにだ。
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