戦国異伝
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第二十五話 堺へその一
第二十五話 堺へ
謙信もまた、だ。今春日山を発とうとしていた。
「では今よりです」
「はっ、それでは」
「都に」
「上洛です」
こうだ。己の周りにいる二十五将に言うのであった。
「宜しいですね」
「以前よりわかっていたとはいえ」
「それでもですね」
ここでだ。二十五将達はこう口々に言う。その顔には緊張が漂っている。
「都に上るとなると」
「やはり只ならぬものがありますね」
「全くです」
「それは私もです」
謙信もだと。静かに言うのだった。
「はじめての上洛ですし」
「そのうえで公方様に御会いする」
「そうですね」
「そうされますね」
「そして関東管領になります」
謙信は彼等にこのことも述べた。
「公方様に正式にです」
「任じられますな、遂に」
「その為の上洛ですし」
「だからこそ」
こう話してだ。彼等は出発した。そうしてそのうえでだ。彼等もまた都に向かう。謙信はその中で馬上においてだ。直江兼続に声をかけた。
「それでなのですが」
「はい、都のことですね」
「都は非常に荒れ果てていると聞いています」
「それは確かなようです」
実際にだ。都は荒廃しきっているというのだ。
それをだ。直江は憂いのある顔で話した。
「それは今はです」
「どうしようもありませんか」
「はい、我等が都まで手に入れれば違いますが」
「私は国など欲しくはありません」
実に謙信らしい言葉であった。謙信は土地を欲してはいないのだった。謙信が欲するのはあくまでもだ。大義のみであるのである。
その大義を欲してだ。謙信はこう言った。
「ですが。都の荒廃はです」
「何とかしたいのですね」
「それを思い多くの銭も持って来ていますが」
朝廷及び幕府への上納である。
「それではとてもですね」
「まずは都とその周辺の治安を回復し確固たる政を行わなくては」
「そうでなければ都の復興はありませんね」
「そこは政と同じです」
直江はここでは政を行う者として謙信に述べた。
「ですからやはりここは」
「だとすればです」
直江のその話を聞いてだ。謙信はこう言うのであった。
「私が都まで軍を率いて入り。公方様を補佐する立場になり」
「そのうえで政を執られるというのですね」
「それではどうでしょうか」
こう直江に問うのだった。
「そのやり方では」
「よいですね」
謙信は微笑んでこう応えたのだった。
「確かに。そのやり方ならば」
「大義が立ちます」
「形だけの大義は偽りです」
それは駄目だというのだった。謙信はここでは潔癖を見せた。
「真のものでなければなりません」
「はい、だからこそ」
「私は朝廷、そして幕府が再び力を持ちその秩序が回復することを望んでいます。
「その為に都に上られ」
「今はこうしてただ上洛するだけですが」
「やがては」
「その通りです」
また答える謙信だった。
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