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戦国異伝

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第二十一話 一喝その十二


「それではじゃ。よいな」
「はっ、それでは」
「我等もまた」
「話はこれで終わりじゃ。それではじゃ」
 平手や柴田達にも告げてだ。それから言うことは。
「さすれば茶を飲もうぞ」
「そうですな。茶の場ですし」
「それでは」
「この茶にしてもじゃ」
 信長は茶についても話すのであった。
「こうしてわし等だけが嗜むのではなくじゃ」
「我等だけでなく」
「といいますと」
「民百姓の誰もが楽しめるものにせねばのう」
 これがだ。茶に対する彼の考えであった。
「そうでなければ意味がない」
「しかし殿」
 平手がいぶかしむ調子で主に言ってきた。
「前にも味噌や菓子でも言ってましたが」
「うむ、言ったぞ」
 信長自身もそうだと認めるのだった。
「確かにな」
「ううむ、菓子といえば砂糖ですな」
 平手はその砂糖についても考えるのだった。腕を組みそのうえでだ、眉を顰めさせてそのうえでまた主に対して言うのであった。その言葉は。
「琉球で手に入りますが」
「左様、琉球から買うぞ」
「そうして手に入れますか」
「そうじゃ、多量に買う」 
 そうするともいうのである。
「そうすれば安くなるからのう」
「そうされるのですか」
「味噌も茶もだ。多く作れば安くなる」
 その二つも同じだというのである。
「そういうことじゃ」
「それで民百姓の誰もがそうしたものをですか」
「口にできるようにする」
 信長は確かな声で言い切る。
「天下を泰平にしたうえでな」
「天下を泰平にして」
「そのうえでござるか」
 柴田と林もここで言う。
「殿の目指されるものは何か」
「豊かさでござるか」
「そうじゃ、ただ泰平になっただけでは何にもならん」
 信長は二人にも話した。
「豊かにならねばな」
「そうですな。ただ泰平だけでは意味がありませぬ」
「そこに豊かさがなければ」
 二人もこう話してだった。そうしてであった。
 ここでまた茶を飲んでだ。こうも言うのであった。
「無論酒もじゃ」
「いえ、兄上は」
 今度は信行が兄に言った。
「酒は駄目ではありませぬか」
「そうですな、殿に酒と言われましても」
「いや、意味がわかりませぬ」
「それがしもでござる」
 柴田、林だけでなくだ。平手もそうだというのだ。
「あの、酒は駄目でございますな」
「それでもなのですか」
「誰もが酒をですか」
「そうじゃ。楽しむ飲める世にする」
 そしてであった。今いう言葉は。
「そうしてうっかり戸を閉めずとも夜でも平和な世にするのじゃ」
「そうしてそうした泰平や豊かさを保つものを築かれますな」
 信行は生真面目な調子で兄に話した。
「左様ですな」
「そうよ、それも考えていく」
 天下を治めるに相応しいものをというのだ。彼の考えは深かった。
 そんな話をしながらだ。信長はその避けの話をするのだった。
「酒はのう。どうもな」
「兄上は昔からそれだけは駄目でございますな」
「うむ、飲めん」
 実際にそうだとだ。弟に話す。どうにも腑に落ちない顔でだ。
「如何にも飲みそうだと言われてきておるがだ」
「それでもでございますな」
「それより甘いものがよい」
 信長はこちらの方がというのである。
「柿なり蜜柑なりじゃ」
「無論そういうものもですね」
「うむ、今よりもずっと多く植えるぞ」
 やはりそうしたものもなのだった。
「よいな、それは」
「とにかく誰もが様々なものを飲み食いできる世の中ですか」
「つまりは」
「そういうことじゃ。わし一人が美味いものを飲み食いして何が楽しい」
 少なくとも信長はそうした人間ではない。そうした欲はないのだ。
「誰もが飲み食いしてこそではないか」
「では。その世の中を実際のものとする為に」
 信行がまた兄に応える。
「あの男を」
「そうよ、放っておけん」
 またその話に戻ったのだった。
「よいな、それではじゃ」
「はい、それでは」
「何としても次で」
「討ちましょう」
「そうするぞ。いいな」
 こう話してであった。彼等は今は茶を飲むのであった。
 信長は政や戦だけではなかった。謀もまた行うのだった。そしてその謀によってだ。今その敵をだ。討たんとするのだった。それが次であった。


第二十一話   完


                 2010・12・31 
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