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戦国異伝

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第二十一話 一喝その十


「よいな、それもじゃ」
「はい、それでは」
「それもまた」
「とにかくじゃ。あ奴は間も無くじゃな」
 話をそこに戻した。
「そうじゃな」
「そうですな、そろそろです」
「来られます」
 平手と林が応えたその時だった。彼が来た。
 信行だった。彼は茶室の狭いその入り口から中に入ってだ。そのうえで兄の前に来て一礼してから言うのであった。彼も既に具足は外し普段の折り目正しい服になっている。 
 その服で入りだ。兄に応えるのであった。
「それでは。ここで、ですね」
「うむ、そうじゃ」
 信長も弟に対して応える。
「それでは。よいな」
「はい、あの男のことですか」
「まだ行方はわからぬな」
「はい」
 その通りだというのである。
「何処に消えたのか」
「案ずるな、あ奴はおる」
「この尾張に」
「そなたのすぐ傍にじゃ」
 いるとだ。他ならぬ信行に対して言うのだった。
「もっとも今は流石におらぬがな」
「しかしなのですね」
「窺っておるのは間違いない」
「だから今ですか」
「そうよ。まだ奴が離れているうちにじゃ」
「こうして会い」
「話しておくのじゃ」
 弟にだ。こう話すのであった。
「わかったのう」
「はい、それでは」
 信行も頷く。こうしてであった。
 五人で茶を飲みながらだ。話をしていく。その話はやはりこのことだった。
「してあの男、どうして」
「どうしておびき出しましょうか」
 柴田と林がこう主に問う。
「勘十郎様に術をかけ乱を起こすなぞ」
「決して許せませぬ」
「わしがですぞ」
 柴田は怒りを露わにさせて言うのであった。
「この手で。真っ二つにしてやりましょう」
「いやいや、それはわしがしよう」
 林はだ。珍しく柴田に張り合って言ってきた。
「これでも剣の腕には自身があるぞ」
「いや、ここは織田家随一の武辺者であるわしがじゃ」
「ここはわしがじゃ」
「ああ、よいよい」
 信長がはやる彼等を苦笑いと共に止めた。
「どっちでもよい。というよりかはじゃ」
「といいますと」
「それがし達のどちらでしょうか」
「既にもう鎮吉に告げておる」
 二人にだ。このことを話すのだった。
「もうな。いざという時はあ奴が働く」
「ううむ、鎮吉ですか」
「あの者がですか」
 その名前を聞いてだ。二人は難しい素振りを見せながらもそれでも納得して頷いてだ。そのうえで主に対してこう述べたのであった。
「確かに。あの者ならです」
「無事殿のご期待に添えましょう」
「そうじゃろう。あの者ならやってくれる」
 信長もだ。そのことを確信していた。
「あの男の首を必ずじゃ」
「挙げますな」
「あの者の腕なら」
「既に二手も三手も先を考えておる」
 これが信長だった。そのうえで動く。それが彼のやり方だった。
「わかったな。それではじゃ」
「わかりました。ここは鎮吉に任せまして」
「我等は大人しく見ておきます」
「そうせい。ここはな」
 こう二人に言ったところでだった。平手が口を開いてきた。 
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