戦国異伝
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第十九話 夫婦その十一
「よいな」
「はい、それでは」
「今より」
「真田幸村、この命」
その命は何の為にあるのか。彼は言った。
「義の為にある」
「義に生きそして」
「義に死なれますか」
「さすれば本望だ」
こうだ。熱い言葉で言うのである。
「さすればどの様な試練も喜んで乗り越えようぞ」
「では今は」
「参ります」
「来い!」
十勇士達にだ。来るように告げた。
「いざ、天下の為に!」
「進みましょうぞ!」
十勇士達は主に一斉に襲い掛かる。幸村もその彼等を迎え撃つ。彼等の鍛錬はまさに実戦であった。その中で己を磨く彼等であった。
直江はだ。今は謙信と会っていた。
謙信は今道場にいる。毘の大文字が描かれた軸のあるその部屋でだ。謙信は居合いの構えでいた。そのうえで直江の話を聞いているのだった。
「左様ですか」
「はい」
直江はこう主に答える。
「美濃の蝮がです」
「死にましたか」
「息子である斉藤義龍に討たれ」
「息子ですか」
ここで謙信の言葉が動いた。構えを取ったままでだ。
「それについては言われていますね」
「はい、色々と」
「果たしてどちらが真実か」
謙信はにこりともせず言う。
「それはどうでもいいことです」
「どうでもいいことですか」
「大事なのはその者自身」
それだというのだ。
「斎藤義龍の出生はこの場合はどうでもいいことです」
「では大事なことは」
「彼がそれなり以上の力を持っていることです」
「そのことがなのですね」
「そうです。それが大事なのです」
こう話すのであった。
「彼は蝮を倒しました」
「その美濃の蝮を」
「それだけの力があります。紛れもなく」
「では殿」
直江は自分から主に対して問うた。
「その斎藤義龍ですが」
「はい」
「やはりそれなり以上の力を持っていますか」
「間違いありません。話を聞くと」
既にだ。彼は美濃での一部始終を聞いて知っていたのだ。それを話した者こそ直江その人である。他ならぬ彼が報告したのである。
「ただ戦に強いだけでなく」
「それだけでなくですか」
「人の心を掴むのも得意ですね」
「それもなのですね」
「だからです。彼はです」
「かなりの力を持っていると」
「少なくとも彼がいるうちはです」
どうなるか。謙信はこのことも話すのだった。
「美濃が攻められることはないでしょう」
「左様ですか」
「はい。ただ」
ここで謙信の言葉が動いた。
「一つ問題があります」
「問題とは」
「彼が死んだその時です」
謙信の目は遠くまで見ていた。そのうえで語るのであった。
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