戦国異伝
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第十九話 夫婦その二
「だからだ。すぐに終わらせるぞ」
「わかりました。それでは」
「すぐに九千の兵を」
「動かす。しかしじゃ」
さらに言う信長だった。
「すぐに終わらせるが謀反の芽は完全に潰す」
「完全にといいますと」
「やはり津々木はですか」
「そうされますか」
「斬る」
信長は言い切った。
「あの者は何としても斬る」
「そうですな。あの男を斬らねば」
「さもなければまた何をするかわかりませぬ」
「まして生きていればそれだけで厄介な男の様です」
「さすれば」
家臣達も信長のその言葉に頷く。それでなのだった。
津々木の件はこれで決まった。だが厄介ごとはまだあった。それもこのことにおいて最も厄介な話である。そのことについても話された。
そのことをだ。信長は自分から話すのだった。
「して勘十郎だが」
「決して殺されぬとは聞いておりますが」
「しかし処罰はせねばなりますまい」
「殿、そのことですが」
「一体どうされるのですか」
「勘十郎様については」
家臣達は口々に言う。そしてだった。
筆頭家老である平手がだ。主に対して言うのだった。
「殿、ここはです」
「爺はどう考えておるのじゃ」
「勘十郎様は織田家にとって欠かせぬ方」
これは彼もよく認識していることだった。織田家の誰もがだ。
「殿を十二分に助けて下さる方です」
「しかも明らかに津々木の妖しげなわざによって操られておるな」
「左様、勘十郎様に大きな落ち度はありませぬ」
平手はこのこともわかっていた。
「切腹は。何があろうとも」
「避けなければならぬな」
「左様です。ただ」
平手はだ。ここで顔を顰めさせてだ。こう話すのだった。
「処罰はせねばなりません」
「謀反を起こしたからにはな」
「はい、さもなければ家がまともにおさまりませぬ」
だからだというのである。
「ですから。最も厄介なのはどうした処罰にするかですが」
「そのことですな」
「確かに。どういった処罰にするのか」
「それが問題ですが」
「どうされますか、殿」
「ここは一体」
「案ずることはない」
信長は落ち着いた声で話すのだった。
「そのことはもう考えてある」
「左様ですか。ではその時はですか」
「殿にお任せしていればいい」
「では。その時はです」
「殿にお任せします」
「任せておけ。さすればじゃ」
また話す信長だった。
「権六達からの文も届くじゃろう。それも待つのじゃ」
「はい。間違いなく権六殿も新五郎殿も勘十郎様から遠ざけられますが」
「それでも中のことはわかる」
「だからこそですな」
「そういうことじゃ。賽は投げられた」
信長はこの言葉を出した。
「後はわし等がどう動くかじゃ」
「ですな。では残る九千の兵を動かし」
「そうして動かし」
「そのうえで、ですね」
こうしてだった。信長は信行の件についても着々と手を打っていた。そのうえで全てを動かし見ていたのであった。それが今の彼だった。
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