戦国異伝
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第十八話 道三の最期その十一
「美濃を、そしてさらに多くのものを手に入れ治められる器量がな」
「だからこそですか」
「美濃をですか」
「殿に」
「そうだとな。書いてあるわ」
こう家臣達に述べたのであった。
「しかとな」
「では殿」
柴田がすぐに彼に言ってきた。
「これから進撃を続け」
「そうですな、斉藤義龍をです」
「倒しそのうえで」
「美濃を手中に」
「いや、ここは帰る」
だが、であった。信長は今はそれをしないというのであった。
そのうえでだ。佐久間と丹羽を見てだ。二人に対して告げた。
「牛助、五郎左」
「はっ」
「何でしょうか、殿」
「殿軍を務めよ」
二人に告げたのはこのことだった。
「よいな。これより尾張に戻るぞ」
「ですが殿」
「それは」
今の信長の言葉にはだ。二人も難しい顔でいうのであった。
「早いのでは」
「そう思いますが」
「そうでござる」
ここでまた柴田が言ってきた。右手を拳にして振るいながらだ。
「ここは一気に美濃をですぞ」
「義龍の兵は一万二千」
信長はその柴田達に対して義龍の兵の数を述べた。
「少し失っていてもそれだけはあるぞ」
「それに対して我が軍は一万」
柴田がその数について述べてみせた。
「多少劣っていますがほぼ互角ですな」
「勝てる見込みは充分にあります」
「それでなのですか」
佐久間と丹羽も言う。
「退かれるのですか」
「この美濃から」
「うむ、そうじゃ」
強い言葉だった。決意そのものであった。
「ここはの」
「何故でございますか」
林も信長の今の考えがわからずだ。いぶかしむ顔で問うのだった。
「道三殿から譲られると言われ。大義も得ているというのに」
「そうです。それで退かれるのは」
「腑に落ちませぬが」
他の家臣達もそれぞれ言ってきた。しかしであった。
信長はその彼等にだ。こう話したのだった。
「一万二千の兵と戦えば勝っても傷が深いな」
「我等は一万」
「それで勝利を収めても」
「そう仰いますか」
「問題は勝った後だ」
信長はただ勝つことだけを考えていたのではなかった。そこからもだった。
「傷だらけになった我等を今川が放っておくと思うか」
「あの家がありましたな」
「確かに」
「若し我等の傷が深ければ」
その時は一体どうなるか、信長が最も懸念しているのはこのことだったのである。
「そこで一気に襲い掛かって来るぞ」
「今川の兵は二万五千」
「それが一気にですか」
「今の一万五千でも劣勢は免れない」
言いながらだった。信長はあることを考えていた。その今川に対してどう立ち向かうか、必ず来るその時を見据えて考えていたのだ。
だが今はそれについては何も言わずだ。家臣達に対してその表のことを述べるのだった。
「それで傷を受ければだ」
「ひとたまりもありませんな」
「その時は」
「それに今川だけではない」
信長は他の家についても言及した。
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