戦国異伝
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第十八話 道三の最期その一
第十八話 道三の最期
稲葉山城からだ。今一万二千の大軍が出陣した。
「進め!」
「まずは川を渡れ!」
「よいな!」
その大軍にだ。次々と指示と叱咤の声が届く。
「そして城を取り囲むぞ」
「そのうえでだ」
「斉藤道三の首を討て!」
あえてだった。大殿という尊称は用いられなかった。しかもだ。彼等は口々にこう言うのだった。
「前守護様を追い出した謀反人を討て!」
「生きて帰すな!」
「決して逃すな!」
それを聞いてだ。足軽達はこう囁き合うのであった。
「ではやはり」
「義龍様は道三様の御子ではなかったのだな」
「前守護の頼芸様の」
「土岐様の方だったのだな」
このことが言われるとだった。美濃の軍勢の雰囲気が変わった。そしてだった。
軍の中枢で指揮にあたる義龍に対してだ。こう声をあげるのであった。
「義龍様の為じゃ!」
「土岐様の為じゃ!」
「皆戦おうぞ!」
「そうしようぞ!」
それを聞いてだ。鎧の上に陣羽織を着ている義龍も満足した顔で言うのであった。
「士気があがっておるな」
「はい、やはり殿が土岐様の方であるとわかればです」
「誰もが士気をあげます」
「そうなります」
「それだけ斉藤は嫌われておったか」
義龍はふとこう呟いた。
「ここまでということは」
「そうですな。確かに」
「我等はやはり土岐様に代々お仕えしてきましたから」
「どうしてもです」
「左様か、やはりそうなるか」
義龍も彼等のその言葉を聞いて述べた。
「土岐か」
「この美濃は土岐様の国です」
「ですから。義龍様が土岐様の血を引いておられるならです」
「我等もまたお仕えします」
「そういうことです」
「ではだ。わしはだ」
義龍もまた、だった。その彼等の言葉を受けて言った。
「土岐の者となりそのうえでだ」
「はい、そのうえで」
「大殿をですな」
「斉藤氏を」
「滅ぼす。馬を出せ」
こう命じた。するとだ。
すぐにその馬が来た。大柄な彼に相応しく途方もなく大きな馬だ。
その馬に乗りそのうえでだ。軍配を大きく上から下に振るい前を指し示した。
「全軍進撃!川を渡れ!」
「はっ!」
「では全軍で」
「敵の数は少ない!」
千もいないことはだ。彼も知っていた。だからこそこう言うのだった。
「敵のいる場所に弓や鉄砲を放ちだ」
「そしてそのうえで」
「川を」
「そうだ、一気に渡るのだ」
これが彼の命だった。
「そして敵は踏み潰せ」
「そのうえで鷺山城も」
「そこまで」
「そうだ、数を使って攻めよ」
これが彼の今の戦術だった。そしてだった。
彼自ら軍の指揮にあたりだ。戦うのだった。
義龍のその大軍が今一気に長良川に迫る。それに対して道三の千にも満たない軍は弓や鉄砲を放とうとする。しかしだった。
「撃て!」
「今だ!」
待ち構えていた義龍の兵達が逆に弓や鉄砲を放ちだ。彼等を退けるのだった。
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