戦国異伝
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第十七話 美濃の異変その十四
「その札は婿殿に必ず手渡す様にだ」
「そして時が来れば」
「左様、婿殿にとって大きな力となる故にじゃ」
「わかり申した」
ここで遂にであった。可児も頷くのであった。そしてであった。
彼はだ。今の主に対して述べた。
「では。今より尾張に」
「向かってくれ。よいな」
「はっ」
「もっとも。婿殿はじゃ」
道三はすっと笑ってまた述べた。
「既に出陣しておるだろうな」
「そしてここにですね」
「向かわれているというのですね」
「そうじゃ。しかし間に合わぬな」
道三はこのことも読んでいた。既にだ。
「そして婿殿もそれはわかっておる」
「それでもなのですか」
「出陣される」
「そうされるのですか」
「そうせずにはいられんからな」
「といいますと」
「それは何故でしょうか」
家臣達は今の主の言葉にはいぶかしむ。するとだった。道三はその問いにも答えたのだった。
「聞くがだ」
「はい」
「何でしょうか」
「そなた等は親が病で助からないとするぞ」
「その時はですか」
「どうするかというのですね」
「そうじゃ。そのまま見ているだけでおるか」
こう問うのであった。
「そのまま死ぬのを。見ているだけか」
「いえ、流石にそうなるとです」
「とてもそうはしていていられません」
「駄目とわかっていてもです」
彼等も答える。その時はどうするかをだ。
「医者を呼び祈祷をしてもらいです」
「傍にいて何とか手を尽くしてです」
「駄目なのがどうにかなるやも知れませんし」
「ですから」
「そういうことよ」
ここで道三はまた言ってみせた。
「だからよ。婿殿もそれは同じよ」
「そういうことなのですか」
「それで婿殿は今出陣される」
「だからですか」
「左様、だからこそ今出陣しておるのよ」
尾張にいる彼のことをだ。道三は見えていたのだ。その心でだ。
「そういうことよ」
「では大殿、ここはですか」
「その婿殿の為に」
「あえて」
「戦うぞ」
こう述べた。今は。
「よいな、それで」
「はい、では」
「戦う者だけを残し」
「そしてそのうえで」
「最後の最後まで戦いましょうぞ」
「思えばじゃ」
道三は立ち上がった。今度はそのうえでの言葉だった。
「一介の小坊主がここまで来た」
「美濃の主にですな」
「多くの戦いを経てきた」
これまでの生涯を思い起こしながら。今語るのだった。
「切って切られ。多くの戦を生き抜いてきたがじゃ」
「それも最後ですな」
「この戦で」
「最後の最後でよい息子を得られた」
頭の中に信長を思い浮かべてだった。彼は語っていた。
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