戦国異伝
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第十四話 美濃の蝮その十四
「わしが義父殿を配下にすればいいのじゃ」
「まさか。それは」
「幾ら何でも」
家臣達の誰もが主の今の言葉には唖然となった。そして誰もがこう言うのだった。
「あの蝮殿を飼いならすというのはです」
「流石に無理では」
「あの御仁はそうした御仁でありません」
「寝首をかかれるやも知れません」
「ですからそれは」
「蝮は何じゃ」
ところがだった。信長は余裕のある顔でだ。家臣達に対して問うてきた。
「蝮は何じゃ」
「何だとは」
「どういう意味ですか」
「今の御言葉は」
「蝮と蛟どちらが上じゃ」
自身が言われていることをそのまま話に出したのだった。
「果たして。どちらがじゃ」
「それは言うまでもありません」
「そうです」
「その様なものは」
この問いにはだ。誰もがすぐに答えた。その返答は。
「蛟は龍になります」
「しかし蝮は蝮です」
「毒こそありますが」
「所詮龍には」
「そういうことよ。わしは蛟じゃ」
ここでだ。信長の笑みが確かなものになった。そのうえでの言葉だった。
「蝮に勝ってみせるとしよう」
「では戦ですか」
「そうされるのですか」
「戦?馬鹿を言え」
このことはすぐに否定した彼だった。
「今は会談に行くではないか」
「ですからその後で戦をされるのではないのですか」
「違うのですか、それは」
「そうはされないのですか」
「ははは、弓や槍を使う戦はせぬ」
大きく笑って言う信長だった。
「その様なものはじゃ」
「それはされぬというのですか」
「そうなのですか」
「そうじゃ。それはせぬ」
やはりこう言う彼だった。
「まあ。戦はするがな」
「というとつまりは」
「今からの会談がですか」
「それですか」
ここで彼等はわかった。ここでだった。
そのうえでだ。彼等はそれぞれ言うのだった。
「戦であるというのですね」
「蝮殿と」
「そういうことじゃ。何も刀や鉄砲ばかりが戦ではないぞ」
このことはだ。実によくわかっている信長だった。
「会うこともまたじゃ」
「戦ですね」
「確かに」
家臣達もその言葉に頷く。
「ではここは」
「この会うこともですか」
「真剣勝負ですね」
「まさに」
「命を賭けるぞ」
信長の顔が実際に鋭くなった。きっとだ。
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