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戦国異伝

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第十四話 美濃の蝮その十一


「弟殿の義秋様はいささか謀りを好まれますが」
「ふむ。聡明なのか」
「今の幕府におられるのが無念でなりません」
 明智の言葉には辛いものまで見られた。
「かつての幕府ならば。より多くのことをされるのですが」
「仕方ないことじゃな」
 道三はこのことには素っ気無く返した。
「今の幕府ではのう。何もできはせぬ」
「はい」
 明智は道三のその言葉に仕方ないといった面持ちで頷いた。
「そのことが。これでは」
「天下は乱れるがままになるな」
「三好は信用できません」
 明智は近畿を掌握するその家のことも話に出した。
「とりわけ松永はです」
「松永久秀だったな」
「はい、あの者はとりわけです」
「わしも言われるがあの者はさらにじゃったな」
 道三は考える顔になってだ。述べるのだった。
「出自がはっきりせぬな」
「どういう者かわかりません」
 明智もそうだと話すのだった。
「ですがそれでもです」
「その才はか」
「恐ろしいものです。戦においてもです」
 まずは戦から話すのだった。
「謀により多くの勝ちを手に入れております」
「謀か」
「その謀はまさに蠍の如し」
「毒があるのじゃな」
「それもかなり強いものが」
「左様か。してじゃ」
 道三は明智からその松永という男のことをさらに話すのだった。
「それで終わりではないな」
「政もできます。また多くの者を陥れてきてもおります」
「して三好の家の中で頭角を現しておるのじゃな」
「今では主家を凌がんばかりです」
 そこまでだというのだ。
「大和の信貴山において拠を構えです」
「そこから。蠢いておるのか」
「あの者が今最も油断なりません」
 明智の言葉は実際に危険なものが今目の前にあるような。そうしたものになっていた。
「どうにかしなければ」
「幕府におっても気の休まる間もないか」
「早くこの世を平穏にしたいのですが」
「それにあの大うつけが役立つか」
「公方様はとにかく織田殿を見てまいれと仰っていました」
「わかった。それではじゃ」
 道三は明智の話をここまで聞いてだ。あらためてこう告げた。
「十兵衛よ」
「はい」
「共に見るのじゃ」
 こう彼に告げたのである。
「その尾張の大うつけをな」
「わかりました」
 明智は道三のその言葉に素直に頷いた。そうしてだった。
 傍らにいる細川にだ。こう話すのだった。
「細川殿もそれで宜しいでござるか」
「はい」
 細川は明智の言葉にすぐに頷いてきた。
「それがしも一度見てみたいと思っていましたので」
「それでこちらにでしたね」
「ですから」
 こう明智に述べる彼だった。
「しかし。尾張というのは」
「尾張とは」
「いえ、ここは」
 細川は尾張の周囲を見回していた。するとだ。
 田畑はかなりのものだった。見渡す限り水田が続きそこで百姓達が平和に手入れをしている。畑でものどかに耕されている。細川はそれを見てこう言うのであった。
「これは」
「凄いものですな」
「はい、見事ですらあります」
 細川はこうまで言うのだった。
「ここまで治めているとは」
「これは織田殿がしていることでしょうか」
 明智は信長が治めているのではと思ったのだった。 
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