戦国異伝
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第十四話 美濃の蝮その六
「本当にか」
「見ての通りじゃが」
「それが信じられんのじゃ」
蜂須賀の驚いた顔はだ。そのまま変わらなかった。口調もだ。
それでだ。彼はこうも言うのだった。
「全くのう」
「そこまで言うか」
「言うわ。何という速さじゃ」
まずはその仕事の速さから話す。
「そしてどれも見事にできておるのう」
「うむ、よいことじゃ」
「ただ組に分けて場所を決めて報酬を弾んだだけなのにか」
だが、だった。蜂須賀はここで気付いたのだった。
「いや、待て」
「どうしたのじゃ?」
「それだけでも凄いことじゃな」
この事に気付いた彼だった。それでまた言うのだった。
「その三つのどれも。わしにはじゃ」
「どうだというのじゃ?」
「思いもつかんことじゃ」
腕を組んでだ。そうしての言葉だった。
「いや、全くじゃ」
「まあわしも少し考えてみた」
木下はその人懐っこいを笑みを蜂須賀にも見せた。蜂須賀もその笑顔にだ。妙に惹かれるものを感じていた。
それを感じながらだ。彼の話を聞くのであった。
「それでやってみたのじゃ」
「試しにか」
「左様、しかし上手くいったな」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「しかし?」
「これはこれからもやっていくか」
こう言う木下だった。
「それではのう」
「わしもやっていいか?」
蜂須賀はここで木下に言ってきた。
「わしも。よいか?」
「わしの今のやり方をか」
「そうじゃ。やってよいか」
「こんなものやるなと言っても止められるものではあるまい」
これが木下の返事だった。
「違うか?」
「そういえばそうか」
「やり方だけだからのう。まあそれで織田家がよくなればそれでよい」
「御主の手柄でなくなってもか」
「手柄は人に譲って汗も人の為にかく」
ここでこんなことも言う木下だった。
「それでどうじゃ」
「一見御主が損をするように見えるがじゃ」
蜂須賀も馬鹿ではない。そうしたことをすればどうなるかはだ。彼にもわかる。それでこう木下に対して言うのであった。
「御主の得になるのう、それだと」
「ははは、そうなのか」
「いや、御主それをわかっておるだろう」
「それは答えぬ」
木下の笑みは今度は思わせぶりなものだった。その笑みでの言葉だった。
「答えても皆真似するじゃろ」
「まあそうじゃな」
実際蓮かもそのつもりである。だから今こう言ってみせたのだ。
「それはな」
「では答えぬ。それこそただでやるぞ」
「そうするのじゃな」
「まあそういうことじゃ。それではじゃ」
「うむ。それではじゃな」
「仕事が終わったことを殿に申し上げてだ」
これは必ずしなければならないことだった。さもなければ終わったことにはならない。木下達の間でもこれは常識の話しであった。
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