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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その十三


「ではそうするとしよう」
「そうして頂ければ私も安心できます」
「そうだな。後で家臣達とも話すが」
「どなたも同じことを言われます」
「やはりそうだな」
 それはもうわかっているというのだった。
「あの者達は。誰もがな」
「美濃に行かれることなぞ誰も勧めませぬ」
「死にに行くようなものだからな」
「ですから。是非尾張に」
「しかし逆に言えばば」
「逆に?」
「向こうはどうだろうな」
 道三の側に立ってそのうえで妻に話してみせるのだった。
「向こうにしてみれば敵の地に入るのだがな」
「それは御安心下さい」
「安心していいのか」
「父上はその様なことで動じる方ではありませぬ」
「左様か」
「ですから。謀で国を手に入れたのです」
 このことを強調して言う帰蝶だった。
「それに。戦もまた」
「無類の強さだしな」
「ですから。尾張に入られてもです」
「動ずることはないか」
「その様なことでは」
「まあわしも同じだがな」
 信長は笑ってこうも言ってみせた。
「それはな」
「ですがそれは決してです」
「ああ、わかっておる」
「わかっておられればいいのですが」
「どうもわしは信用がないのう」
 苦笑いがここでも出た。
「何故じゃ?」
「殿は突拍子もない方ですから」
「よく言われるわ」
「全くです。平手様達が言われるのも当然です」
「爺は特に五月蝿いのう」
 平手に関しては信長もこうだった。
「全くのう。昔から」
「それでも突拍子がないのはなおされませんか」
「これでも気をつけておるのだがな」
「そうは見えませんが。ただ」
「ただ?」
「似ていますね」
 不意に帰蝶の言葉の調子が変わった。
「そうしたところは」
「似ている?蝮とか」
「おわかりになられましたか」
「大体わかった」
 そうだったというのである。
「何となくだがな」
「勘がお鋭いところもです」
「ははは、わしと蝮は似た者同士か」
「そう思います」
 あらためて夫に話す。
「私の目から見れば」
「ふむ。ではわしも梟雄になるのか」
「いえ、そこは違います」
「梟雄にはならぬか」
「英雄になるとは思いますが」
 そちらだというのである。
「殿は梟雄にはです」
「ならぬか」
「父上はそうなるしかありませんでしたから」
「梟雄にか」
「はい、そうなるしかです」
 こう話すのである。
「状況がそうでしたので」
「何かを手に入れる為には時として悪名を受けねばならぬ」
「ですから」
「しかしわしは、か」
「殿は最初から殿でした」
 信長を見ながらの言葉であった。
「そう、最初からです」
「蝮とは違ってじゃな」
「ですから。そうはなられないかと」
「ふむ。そして英雄になるか」
「尾張一国では終わられませんね」
「何度も言うがそれがはじまりじゃ」
 このことは妻に言う時も変わらなかった。信長はそこにだ。確かなものを見ていたしそれを隠すこともしなかったのである。だから言葉も強かった。 
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