木の葉芽吹きて大樹為す
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若葉時代・木の葉編<前編>
前書き
本当は木の葉、ではなく「木ノ葉」なんですけど「木の葉」で通させていただきます。
この話も複数話を一話に纏めております。
領土の平定を望んでいる火の国と、一族同士の同盟を結んだ私達忍び連合。
互いの話し合いが順調に滑り出し、とんとん拍子に進んでいったのは、お互いの利害が一致する所が大きかったのだろう。
火の国に点在する各忍び一族達が纏まると言う事は則ち、火の国側が願ってやまない領土の平定と人心の安寧へと繋がるのだから。
私は大名との話し合いを終えて、意気揚々と忍び連合への逗留地へと足を踏み入れた。
夕方時なため、逗留地のあちこちで晩ご飯のために炊き出しの煙が上がっている。
前の祭りの際、一族の垣根を問わずに仲良くなったのか。異なる衣装を纏った子供達が入り交じって遊んでる姿がちらほらと目に入る。
「あ! 柱間様だ〜!」
「お帰りなさい、柱間様! お話は上手くいきましたかぁ?」
頭に相棒の忍犬を乗せた犬塚の子。寡黙に出迎えてくれる油女の子供達。
抱きついて来る猿飛一族の幼子達に、志村の少年少女。
一歩離れた所で礼儀正しくこちらに会釈してくれた日向の若い衆に、うちはの一族のちびちゃん達もいる。
「お帰りなさいませ、頭領。大名との話はどうなりましたか?」
「ただいま、皆。出迎えありがとう、桃華。順調も順調。こっちが怖くなる程、上手くいってるよ」
教科書に載せれそうな綺麗な立ち姿で一礼してくれた桃華へと視線を送る。
そうして、逗留地へと視線を巡らせた。
最初見た時は背後に巨大な崖が聳え立っているだけの何も無い場所であったのに、こうして連合の忍び達が集まり、様々な建物が建立されていくに連れ、徐々に人が住むに相応しい土地へと変わったものだ。
「ふふふ。なんだか嬉しいなぁ」
「どうしたの、柱間様?」
「なんだか嬉しそうな顔をしているね」
兼ねてから目をつけていた土地へと、集落から連合の一族達が移り住む様になって早一週間。
そんな短い間で、今まででは考えられなかった様な変化が起き始めているのだ。
「なんだかとても嬉しくてね」
「ふうん。そうなんだ」
胸がほっこりする様な、そんな気持ちに成れた事が嬉しくって、近くに居る子供達へと抱きつく。
締まりない顔をしているのが自分でも分かるが、それを隠す気はなかった。
「――やれやれ。相変わらずじゃな」
「じいちゃん!」
溜め息混じりの声と、ダンゾウ君の吃驚した様な声。
抱きしめていた腕を放して振り向けば、予想通り志村の旦那の姿があった。
「しかし……。その分だと話し合いは上手くいっておるみたいじゃな」
「はい! 一国一里の制度は向こうにも受け入れ易くあったようです。近いうちに、ここも里と呼ばれる様になるでしょうね」
人々が賑わう逗留地内を見回す。
食欲を湧かせる香ばしい香りに、木材に釘を打ち付ける澄んだ音。
資材を運ぶ力自慢の男達に、差し入れを持っていく若い女の子達。
――徐々に単なる逗留地から、里と呼ばれる様な空間に成っていくのだろう。
「柱間様〜。お仕事が終わったなら、一緒に遊ぼうよ。おれ達、柱間様が帰ってくるの待ってたんだぜ」
「そうそう! ね、柱間様。またお話しして!」
子供達から服の袖を引っ張られて、無邪気な表情で強請られる。うわぁ、やっぱりこの年頃の子供達って可愛いなぁ……こっちの心が癒されるわぁ。
熱烈なコールに、桃華が困った様に眉を顰める。
どうしよう、この後も仕事が待っているってのに……心が揺らぎます。
「だめじゃ。柱間殿はこれより先に大事な話をせねばいかんのでな。また次の機会にせよ」
「ええ〜、そんなぁ! この前も同じ事言われたよ」
名残惜しいけど、やっぱり仕事を後回しにしちゃいかんよね……。あーあ、遊びたかったなぁ。
「柱間様!」
「冗談、冗談。ちゃんと仕事するから、そんな怖い顔しないでよ、桃華」
名残惜し気に子供達の姿へと視線を送っていたら、きりりと眉を吊り上げていた桃華。
真面目に仕事します、真面目に。
にしても、千手内での私への信頼って、こういう事に限ってえらく信用が無いんだよね。昔散々仕事すっぽかしたせいかしら? だとすれば由々しき事態だな。
桃華と一緒に千手の邸へと向かう途中、そんな事を考えました。
「木の葉隠れ……?」
「そう、木の葉隠れの里。どうでしょう、いい名前じゃないですか?」
頭領達を集まっての談義。その際に、兼ねてから考えていた名前を挙げてみる。
これからここは一時的な逗留地ではなくなり、里へと変わる。そのためには里の名前が必要だろう。
「他にも色々と案がありましたが、これが一番いい名前じゃないかな? と思いまして」
逗留地のあちこちに設置した箱にこの新しい里に付ける名前を投票してみれば、その中の一枚に【木の葉隠れ】と書かれた紙があったのだ。
他にも色々と気になる物はあったのだが、これが一番しっくりと来た感じがした。
「それに、これだったら連合のマークにも相応しいですし」
前々から使用している連合に所属した事を示す、渦を巻いた葉っぱの模様。
これらは既存の一族を示す家紋とはまた違う、新たに始まった複数の忍び一族同士の『里』に相応しい、新しい名前と新たな紋になるだろう。
「いいのではないか? 悪くない名前だと思うが」
一番に口を開いたのは、意外な事にマダラだった。
いつもは全員の意見が纏まってからしか口を開かないマダラがいの一番に賛成を示した事に、他の頭領達も驚いた様な顔をしている。私も同じだけど。
「オレもマダラ殿と同じだな。こいつの事だ、一番最初にマシな案が出て来ただけ奇跡だろ」
なんか、猿飛殿の言葉には含みがある様な……。なんで?
疑問を顔一杯に浮かべて、猿飛殿を見れば、溜め息を吐かれた。
「お前な……。自分のセンスにもう少し疑いを抱いた方がいいぞ。この間の盆栽をよーく思い出せ……!」
猿飛殿の言葉にうんうん、と頷き合う頭領達。
失敬な! あれはここ一番の最高傑作だったのに! 水中に潜む鮫の執念深さを表現した最高の一品だったじゃないの!
「だよねぇ……。あんな感じの名前が飛び出てくる前に『木の葉』に決めといた方がいいと思うよ」
「だよな。流石にこの間の盆栽みたいな物が出されちゃかなわねぇ。オレも『木の葉』で賛成だ」
皆さんの笑い混じりの言葉に、私としては心が砕かれそうです。
そんなにセンスが無いのかなぁ……。なんか落ち込んで来た。
「先程から何を言っておるのじゃ?」
「そっか。日向の長老殿とマダラ殿はまだ見た事が無いんだよな。柱間殿の盆栽」
「まず間違いなく、今までの価値観がぶっ壊される事は確かです」
「柱間、貴様……」
マダラの生暖かい視線が癪に触る。どうせ、どうせ私に盆栽のセンスはありませんよーだ。
卑屈になっていれば、志村の旦那がじろりと睨んで来る。
あ、すみません。里の今後を決める大事な話し合いの最中でした。
「こ、こほん! 特に反対も無さそうなので、逗留地改め、この里を『木の葉隠れの里』と呼ぶ事にします。皆様方、異論はありませんね?」
当たり前の話だけど、異論は無かった。
そう言う訳で、今日からこの里は『木の葉隠れの里』と名付けられ、木の葉の通称で呼ばれる様になるには時間はかからなかった。
*****
私は今、非常にこれまでに無く満たされた思いでいた。
周りの頭領達の信じられない物を見る様な視線も、千手の人達の微妙そうな眼差しも全くと言っていい程気にならない。
まさか、まさか……ずっと願って止まなかった同じ感覚を持つ者がこの世にいただなんて……!
「大好きだ、マダラ!」
「くっつくな、鬱陶しい!!」
溢れんばかりの思いを表現して抱きついたら、殴られました。涙が出る程とっても痛かったです。
「ほら見なさい、猿飛殿! 世界は広い、オレと同じ様な感覚を持つ者だってこの世に居るじゃないか!」
「オレは……オレは絶対認めねぇ……! どうしてこんな悲惨な盆栽を受け止められるんだ、マダラ殿……!?」
心底絶望し切った表情の猿飛殿。隣では猪鹿蝶トリオもこくこくと頷いている。
歴戦の勇士である志村の旦那と日向の長老殿も、何処か遠い目で私達を眺めてる。
「じゃあ、マダラ! これは、これは?」
「……今にも飛び立とうとする竜……ではないのか?」
「どうして分かるんだ、マダラ殿ぉぉぉおお!」
「ほーら、見ろ! 遂に来たよ、オレの時代!!」
以前、志村の旦那にけちょんけちょんに貶された一品を持ち出して、マダラへと差し出せば淡々とした声で答えてくれる。
けど、マダラが正解する度に周りの人々の目がどんどんと死んでいくんだけど。
「信じらんねぇ……。今まで扉間様を始めにどなたも頭領の盆栽を理解出来なかったってのに」
「前衛的っていうか、異次元的な代物だからな。あれは」
「それが理解出来るうちはの頭領って……もしかして」
揃って私とマダラに懐疑的な眼差しを送って来る人々。でもちっとも気にならないぜ!
なんたって、とうとう私の作品を理解してくれる人が出て来たんだもの!! 万歳!
「どうしてこれが竜だと理解出来るんだ! どう考えても干涸びかけた蚯蚓だろぅ!?」
「僕には死にかけの鳥類にしか思えないんだけど」
「秋道に同意」
「ワシも同じく」
それまでだったら酷評に心が挫けていただろうが、生憎と今日の私はそれを受け止められるだけの心の広さを持っているのだ。
マダラを除いた人々が私の歴代の作品の前に陣取って、ああでもないこうでもないと騒ぎ合っていたら、邸の奥より銀色の頭が覗いた。
「やけに騒がしいと思ったら……兄上、何をなさっているのです?」
「聞いてよ、扉間! とうとうオレの作品の理解者が現れたんだよ!!」
「え……?」
固まった弟の腕を取ってぶんぶんと振り回せば、扉間の視線が泳ぐ。
そうして、ただ一人騒ぎに混じる事無く腕を組んでこちらを見つめていたマダラへと視線が合わさって、口の端を引き攣らせた。
「まさかとは思いますが……うちはマダラが?」
「そう! いやー、世界は意外と狭いね。こんな身近に理解者がいただなんて想像もしなかったよ」
えへへ、と笑えば、扉間がやけに絶望した表情で私を見やる。な、何故だ?
「姉者……。間違っても嬉しさのあまり抱きついたりしていませんよね?」
あ……。
潜められた声に、慌てて視線を逸らす。
その反応だけで付き合いの長い弟には理解出来たらしい。どうしよう、気まずい。
にしても感情が昂っていたとはいえ、私はあのうちはマダラに抱きついたのかぁ……よく殴られるだけで済んだよ。須佐能乎の攻撃食らっても可笑しくなかったよね。
後書き
原作で唯一本物のマダラと付き合いのあるオオノキが(仮面)マダラを偽物だと断じていなかったので、本物のマダラもそれなりにハイセンスだったんじゃないかと思いまして。
ぐるぐるお面はまだマシですよね、戦闘用とそれ以前の奴と比べたら。
……この話の主人公もなんだかんだで残念なハイセンスです。
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