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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その八


 黒い軍勢は整然と越後に帰る。赤い軍勢はその彼等を見送る。
 信玄もだ。こう言うのであった。
「敵の後詰は直江か」
「はい」
 彼の傍に来ていた真田幸村が答える。主の傍に控え片膝をついている。
「左様です」
「見事。この戦いはだ」
「はい、この戦いは」
「そなたと直江の戦いだったな」
 そうだったというのである。
「まさにな」
「それがしと直江殿のですか」
「そうだ、勘助を助けたそうだな」
「御館様の御言葉通り」
「そして信繁も」
 彼もだというのだ。
「救ってくれたか」
「信繁様は武田にとってかけがえのない方。御館様の御言葉通り」
 こう話す幸村だった。
「ですから」
「信繁は無理だと思っていた」
「そうだったのですか」
「しかし。よくぞ助けてくれた」
 幸村の方は見ていない。しかし確かに言った。
「礼を言う」
「礼!?」
「そうだ、礼を言う」
 信玄はまた言った。
「あの二人を救ったこと。礼を言う」
「御館様、勿体なきお言葉」
 幸村は主のその言葉に思わず平伏した。そしてそのうえで言うのだった。
「それがしの様な者にそこまで」
「そなた、いい将になるな」
 信玄はその幸村にこうも話した。
「そしていい侍にもなる」
「侍にも」
「目指せ、いい将、そして侍をだ」
 そうせよというのであった。
「よいな」
「はっ、それではこの真田源次郎幸村」
「うむ」
「天下一の漢を目指しましょう」
「そなたならばなれるな」
「はっ、まことにい有り難き御言葉」
「そしてだ」
 ここでだ。信玄の口調がやや変わった。
「そなたの名だが」
「名でございますか」
「源次郎というのか」
 この場ではじめて幸村に顔を向けてだった。そのうえで言ったのだった。
「そうだったのか」
「はい、左様です」
 その通りだと返す幸村だった。
「それがそれがしの名でございます」
「わかった。では源次郎」
 その名前で呼んでみせたのだった。
「これからもだ。頼んだぞ」
「では。この幸村の全てを」
 幸村は顔を上げてだ。毅然として信玄に言った。
「御館様、そして武田家の為に捧げます」
「わしは幸せ者よ」
 信玄は腕を組んでいた。そしてそのうえで顔を正面に戻す。その正面にはだ。彼が絶対の信頼を寄せる歴戦の二十四人の将達が来ていた。
 そこには武田信繁もいれば山本もいる。嫡男である武田義信がその穏やかで流麗な顔を見せて来ている。誰もが赤い、炎を思わせる鎧兜にそれぞれの陣羽織を羽織っている
 信玄はその彼等を見ながらだ。また言ったのだった。
「これだけの将達がいて天下最強の兵達を持っているだけでなく」
「それだけでなくですか」
「今ここに天下一の漢を手に入れた」
 また幸村を見ての言葉だった。 
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