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戦国異伝

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第百九話 尾張者達その十


「是非共のう」
「そういえばまた面白い者達が来ている様です」
「どういった者じゃ」
「耶蘇教に替えたもの、切支丹の者ですが」
「ほう、切支丹か」
 信長もこの言葉は知っていた。キリスト教を信じる者のことだ。
「その者が来ておるのか」
「それも一人だけではありませぬ」
 平手は信長にこうも言った。
「その者達とも会われますか」
「無論じゃ」
 信長は躊躇することなく答えた。
「言ったな。何かに秀でた者なら誰であろうと用いると」
「それでは」
「そうする。後はじゃ」
「後はとは」
「島左近のことじゃが」
 信長は新たに若い家臣達を用いる際に名前が出たこの者のことをここで話した。
「あの者についてどう思うか」
「戦の場で無類の強さを見せるそうですな」
「鬼とさえ呼ばれておるそうじゃな」
「それがしもそれは聞いております」
「そこまで強いのなら用いたい」
 まさに喉から手が出るといった感じの言葉だった。
「是非な」
「ですが用いるのならです」
「石高の半分じゃな」
「織田家でそこまで出すとなりますと」
「無理じゃ」
 これは既に出ている答えだ。
「到底な」
「はい、それがしも若し殿がその者を用いられるならば」
「止めておるか」
「間違いなく」
 そうするというのだ。
「一人に三百何十万石も出せませぬ」
「武田や上杉よりも多いわ」
 その石高がだというのだ。
「それではのう」
「到底出せませぬ」
「だから見送った形になったがのう」
「それでもでございますか」
「頭もいい様じゃし是非用いたい」 
 織田家でだというのだ。
「そうしたいのだがのう」
「誰かいい知恵を持っている者がいればいいですが」
「爺は何か考えがあるか」
「いえ、申し訳ありませんが」
 平手は無念そうに首を横に振って答えた。
「それがしにも」
「ないか」
「はい」
「三百万石以上となるとのう」
「価値が大き過ぎます」
 平手も絶対に、という口調である。
「その石高で用いるなぞ論外です」
「そうじゃな。しかしあの者は欲しいと思う」
 島はどうしてもだというのだ。
「そう思うがのう」
「ですがそれはどうも」
「惜しいが諦めるしかないか」
「三百万石なぞ出せませぬ故」
 一人の家臣にそこまで出しては領地経営もままならない、信長も平手もこのことは実によくわかっている。
 それ故にそこまではだというのだ。
「よき智恵があればよいのですが」
「そうじゃな。用いたいのう」
「とりあえず今はです」
 平手はあらためて信長に話す。
「他の者を用いていきましょう」
「今度は切支丹の者達じゃな」
「はい、会われますか」
「無論じゃ。優れた者に宗派なぞ問わぬ」
 信長もキリスト教はあくまで宗教、もっと言えば宗派の一つだと思っている。だから特にこれと言ってだったのだ。
 それでこのことには特にこだわりもなくさらに言う。
「誰であっても用いるぞ」
「では」
「うむ、会おう」
 こうして今度は切支丹の者達と会う信長だった。織田家にまた優れた者達が加わろうとしていた、それはまさに日輪に星達が集うかの如きだった。


第百九話   完


                           2012・10・3 
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