戦国異伝
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第百九話 尾張者達その三
「幾ら声をかけても動きませんでした」
「わしを嫌ってか」
「一体幾ら出して下さるのかと」
「幾ら。銭か石高か」
「石高でした」」
それを処方だというのだ。筒井ではなく山内が話す。
「それがしの聞いたところであ左近という者、かなりそうしたことには五月蝿い御仁ですが」
「それ程までか」
「はい、織田家の半分と」
「半分か」
「今織田家は七百六十万石ですが」
「その半分をです」
「無理じゃな」
「はい、ですから」
それは幾ら何でもだった。
「それがしもとても」
「ここに連れて来ることはできんかったな」
「はい、とても」
「只者ではないな」
信長は笑いながら言う。
「そうじゃな」
「確かに只者ではありませぬ」
「うむ。しかしその者はかつては御主の家におったな」
「左様です」
筒井もその通りだと答える。
「当家で家老をしておりました」
「では御主もよく知って折るな」
「しかし非常に偏屈な者で」
「偏屈ですか」
「はい、それで悶着を起こして家を出ました」
「悶着とな」
「一族の者と土地のことで揉めたのです」
それによって家を出たというのだ。
「一族の者を何人か斬り怪我を負わせてしまい」
「殺しておらぬのならまだ頭を下げられたと思うが」
「それがしもそう思いまして」
筒井もそう思ってその時に何をしたかを話す。
「すぐに己の一族の者に頭を下げてことなきを得よと言いました」
「しかし聞かなかったな」
「全く」
「主であった御主の話も聞かなかったか」
「自分は悪くない、それなのにどうして頭を下げねばらぬ、殿のお言葉でも聞けぬとこう言いまして」
そして挙句に家を出たというのだ。
「いや、あれは大和一の頑固者です」
「そもそも何故斬るまでになったのじゃ」
「相手に愚弄されたと言っております」
その結果刃を抜いたというのだ。信長はこの話を聞いて島がかなり難しい、やはり偏屈な者だと察した。
「そうした者を使うとなると」
「石高の半分、三百万石を超えますが」
「それだけの石高をいきなり入る者に出せるかというとじゃ」
「到底無理な話ですな」
「できるものではない」
幾ら力があろうともだというのだ。
「そんなことをする者はおらん」
「はい、ですからあの者は」
「二度とこの世に出るつもりはないか」
「そうかと」
「島左近といえば鬼左近ともいったか」
「とにかく戦はやたらと強いです」
だから筒井も家老にしたというのだ。
「松永弾正と渡り合えたのも」
筒井は言いながら松永の方を見るが当の松永は平然としてそのうえで話を聞いているだけだ、特に何も見せない。
「あの者がいてこそ」
「ふむ。そうした話を聞くとやはり欲しいが」
「しかし三百五十万石を超えます」
「それだけの碌は権六や牛助でも貰っておらぬわ」
織田家の二枚看板であり宿老であるこの二人もそこまでは貰っていない。
「百万でも夢みたいな言葉じゃが」
「三百万以上です」
「出せぬ。そこが厄介じゃな」
信長は褒美もここぞという時は出す、しかしその彼でも三百万石以上を超えるだけのものはとても出せはしないというのだ。
島の話は今はこれで終わる。そのうえで彼はこの度用いることにした者達の中でも目立つ者を見てこう話した。
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