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戦国異伝

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第百八話 茶の湯の南蛮人その八


「そのことについても」
「銭についてはでおじゃるか」
「困っておりませぬ」
 その困っていない訳も山科に話す。
「二十国、七百六十万石あります故」
「しかしそれぞれの国にも銭をかなり使われているとか」
「ははは、政をすればそれだけ銭が返ってきます」
 信長は山科のその危惧にも笑って返す。
「ですから」
「心配無用と」
「その通りでございます」
「左様でございますか」
 山科はまずここまで聞いた。そのうえで近衛に顔を向けて彼とも話した。
「どう思われますか」
「そうでおじゃるな。ここは」
「はい、どうされますか」
「織田殿にお任せしようかと思うでおじゃるが」
 これは近衛の考えだった。
「宮のことは」
「そうされますか」
「織田殿が安心だと言われるのなら」
「銭のことは安心されよ」
 信長の方もまた言ってきた。
「何とでもなり申す」
「結構な費用になりますが」
「その程度はあり申す」
 織田家にとっては都のこともこう言う程だというのである。
「ですから」
「左様ですか。では」
「はい、宮も見事なものに戻しましょうぞ」
「応仁の乱以降都全体が荒れていますが」
 その都自体も今信長によって急激に復興してきている。宮もその一環というのが信長の考えである。
「見事建て直してみせましょう」
「では期待しますぞ」
「そうさせてもらいます」
 近衛と山科は信長のその言葉に微笑んで頷いた。そうした話をして。
 そのうえで利休の茶を飲む、その茶の味はというと。
「むう、これは」
「これが茶でおじゃるか」
 二人は一口飲んだ碗の中の茶を見ながら唸っていた。
「この味はかなり」
「茶とは思えぬ」
「どうしてここまでの茶になるのか」
「不思議でおじゃる」
 驚きと共の言葉だった。
 そのうえで利休に顔をやる、そして彼にはこう言った。
「利休殿、この茶は何故でおじゃるか」
「ここまで見事な味なのでおじゃるか」
「利休殿の茶の腕でおじゃるか」
「それ故に」
「いえ、私は何も」
 利休は二人の公卿に静かに述べた。
「これといってです」
「では普通に淹れられたと」
「そうでおじゃるか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「茶も普通の茶です」
「普通の茶でございますか」
「普通に淹れた」
「そうです。ただ」
「ただ?」
「ただというと」
「この季節、この場所を考えて」
 そしてだというのだ。
「淹れました」
「今この季節にでおじゃるか」
「そしてこの茶室を」
「そうです。茶は生きております」
 ただ形だけを守ってするものではないというのだ。
「ですからその都度考えて淹れております」
「そうしてこの味なのか」
「この茶の味を出せるというと」
「左様です。ではです」
 見れば利休は茶をさらに淹れていた。そしてその茶をまた飲む二人だった。
 当然信長とフロイスもそうしている。フロイスは茶を飲みながら信長に言った。 
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