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戦国異伝

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第百七話 地球儀その八


「それで。ただ」
「ただとは?」
「少しその耶蘇教の者とも話をしませぬか」
 山科は少し考える顔になってまた近衛に述べたのだ。
「そうされますか」
「何と、耶蘇教の者と」
「どうやらそのフロイスという者は悪い者ではありません」
「しかし南蛮の者でおじゃるぞ」
 近衛はこのことにこだわり表情にやや冷静でないものを出した。公家のその白塗りとお歯黒の顔にそれが出ている。
「そして寺社を壊す」
「そうしている者ばかりでないことは」
「今山科殿が言われたとと」
「ですからここは」
「ううむ、どうしたものか」
「坊主や神主といっても碌でない者も多いではありませぬか」
「比叡山ものう」
 近衛もそう言われると否定できない。だから自然とこの山の名前を出した。
「あの山もじゃな」
「どういったものかは言うまでもないかと」
「麿もあの山には言いたいことがあるでおじゃる」
 とかく僧兵達が好き勝手し上の僧達もあれこれと政に口を出してくる。しかも肉を食い女房までいる始末だ。
「一向宗ならともかく女房までいる」
「そうですから」
「あの山の他にもでおじゃるからな」
「一概には言えぬかと」
「ではそのフロイスという者にも」
「会われてみてはどうでしょうか」
「ふむ」
 近衛は山科の今の言葉に少し考える顔になった。
 そしてそのうえでこう彼に答えたのである。
「そうじゃな。では織田殿とお話し」
「麿も同席させて宜しいでしょうか」
「山科殿もとな」
「はい、そのフロイスという者に興味が出まして」
 それだというのだ。
「一度会おうと」
「では」
「はい、それでは」
 山科は近衛が頷いたのを見てそのうえで微笑んだ。そしてあらためてこうも言った。
「もう一つ考えがありますが」
「?というと」
「織田殿、そしてそのフロイスという者と会う折にです」
 その茶の席でだというのだ。
「千利休殿にも同席をお願いしようかと」
「利休殿と」
「はい、どうでしょうか」
「あの方もまた織田殿と同じく」
「巨大な資質の持ち主ですな」
「麿も一度お会いしたことがあるでおじゃる」
 公卿の筆頭と言ってもいい五摂家の中でも第一の名家である近衛家の主である彼も自然に利休への敬意を出している。そこには身分を超えたものがあった。
「いや、まことに」
「立派な御仁ですな」
「あの方は天下には興味はないでおじゃるが」
「それでもですな」
「一つとてつもないことを果たされるかと」
「ですな。その利休殿もです」 
 茶の席に来てもらいそしてだというのだ。
「会われましょう」
「そうすると」
「これでどうでしょうか」
「よいお考えでおじゃるな」
 近衛は目を輝かせて山科に答える。
「それでは織田殿と利休殿にお話しましょう」
「その様に」 
 利休にも来てもらうことになった。こうした話をしてだった。
 彼等は信長に文を送った。信長もその文を読んでこう言う。
「面白いのう」
「近衛様と山科様からの文ですか」
「うむ、面白い」
 こう荒木に言う。その文を持って来たのは彼だった。 
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