戦国異伝
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第百六話 二条城の普請その十一
人夫達は動き出す。見ればその動きはこれまでより遥かによかった。
信長もそれを見て満足している。そのうえでの言葉はというと。
「これでよいのじゃ」
「こうしたやり方があるとは」
信長の傍らに控える森も唸っていた。
「いや、思いも寄りませんでした」
「少し考えてみたのじゃ」
「それでなのですか」
「どうしたら皆楽しく仕事をやれて」
そのうえでだった。
「しかも怪我をせずに済むかとな」
「確かに。こうした普請となれば」
池田もそのことはよく知っている。城の壁や堀、石垣の普請一つ取ってもそれはすぐにわかることだった。
「どうしても怪我人が出ますな」
「そうであろう」
「怪我ならまだよく」
池田は考える顔でさらに言っていく。
「死ぬ者すらおります」
「事故でな」
「それが厄介です」
「それでじゃ」
怪我も減らすことを考えてだということがここでもわかる。信長自身もそのことについて言いたかったのだ。
「こうしてな」
「また殿の閃きですか」
「思いついたというかのう」
実際にどうかとも話す信長だった。
「楽を聴いておると楽しいからじゃ」
「それ故にございますか」
「そういうことじゃ。ではじゃ」
「これからもですな」
「うむ、明るく普請をしようぞ」
こう言って彼は普請を見守り続ける。誰もが楽しく行い普請は極めて順調に進む。その中で前野は村井に飯を食う場面でこんなことを言ってきた。
「それがし、またしてもです」
「殿に感服したか」
「はい、前から政にも秀でた方でしたが」
「今回のことはじゃな」
「まさかここまで考えておられるとh」
唸る様にして言う。そんな話をしながら白い握り飯を頬張っていく。
「まさにです」
「思いも寄らんかった」
「その通りでございます」
まさにそうだというのだ。
「ここまでとは」
「左様か。それはわしもじゃ」
「助直殿もでございますか」
「うむ。こうした政のやり方があるのだろう」
「まるで盆踊りですな」
その賑やかさからこうも言う前野だった。
「これでは」
「そうじゃな。盆踊りじゃな」
「まさにそれですな」
「最後に祝いに踊りそうじゃな」
村井も考える顔で述べる、
「このままいくと」
「ですな。言われてみれば」
「やはり凄いことじゃ」
今度は唸る顔での言葉だった。
「我等が殿、普通ではない」
「普通を遥かに超えておられますな」
「全くじゃ。それでじゃが」
「はい、二条城の後は」
「聚楽第じゃな。それも築く」
「都の町並みもかなり整ってきておりますし」
応仁の乱で焼け都も実際整いだしてきている。
「よきことじゃ。それにじゃ」
「その普請で切った木の後ですな」
「そこにも気を植えられておられる」
「あれはどうしてでしょうか」
「おそらくじゃが」
こう前出しをしてからの言葉だった。
「次じゃ」
「次とは」
「木は切ったらそれまでじゃな」
「はい、それは確かに」
「しかし植えて暫く経てば」
「また大きな木が生えます」
これが大きい。前野のその言葉にまた言う村井だった。
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