戦国異伝
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第百五話 岐阜に戻りその十四
「あの者、危ういどころではありませぬ」
「だから蠍じゃぞ」
「その様な者ですから」
「一刻も早くじゃ」
「だから待て」
信長が主の座から二人を止める。
「わしの命を聞け」
「殿の」
「そうして」
「わしの命が聞けぬのならな」
信長はここから先は言わなかった。言うまでもないがそれ自体が所謂無言の圧力に他ならないからである。
その為言わなかった。そのうえでのやり取りだった。
「そういうことじゃ」
「申し訳ありませぬ」
「それでは」
「そういうことじゃ。とりあえず今はじゃ」
松永をそのままにする、そしてだった。
「あの者にも働いてもらう」
「政にですか」
「それに」
「やることはかなり多い」
それでだというのだ。
「存分にな」
「それがし達もですな」
羽柴は弟と蜂須賀が言う前にあえて自分のことを話に出して述べた。
「政にですな」
「無論じゃ。猿、御主もじゃ」
「はい」
「小竹に小六もじゃ」
信長は秀長と蜂須賀にも言う。
「わかっておるな。それではな」
「はい、それでは」
「殿の命じられるままに」
「治める国は実に多い」
最早織田家は尾張や美濃だけではなかった。二十の国に七百六十万石ある天下第一の勢力だ。それではだった。
「その全ての国をじっくりと治める」
「何年かかけてですか」
「そうして」
「そうする。何年もかかる」
本当にそれだけかけてだというのだ。
「よいな。じっくりとじゃ」
「それでなのですが」
秀長がここでこの国を名前に出した。
「摂津です」
「摂津か」
「あの国と近江ですが」
秀長はこの国の名前も出した。
「これから天下を治めるには」
「そうじゃな。どちらもな」
「かなりいいかと」
こう信長に言う。強い目で。
「これから拠点とされては」
「そうじゃな。しかしじゃ」
「しかしですか」
「それは暫し先のことになる」
そうなるというのだ。
「近江や攝津に城を築くのはな」
「それだけの余裕がありませぬか」
「ない」
信長はどう余裕がないかも話す。
「時間、それにじゃ」
「銭もですか」
「どちらもない。まずは政じゃ」
とにかくそれに専念するというのだ。信長の関心はまずは政だ。それ故にこれから数年かは政に銭も優先して回すというのだ。
それにだった。信長はさらに話した。
「この岐阜の城もじゃ」
「今はですか」
「より堅固にしておきたい」
「武田に備えてですか」
「今は武田とは特に何もないがな」
甲斐の武田信玄も見ていた。美濃の隣国の信濃を治めているその武田をだ。
「しかしじゃ」
「何時どうしてくるかですか」
「武田信玄は上杉謙信とは違う」
「野心ですな」
「天下に号令しようと考えておるわ」
信長は信玄が何を考えているのかわかっていた。まさに手に取る様にだ。
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