戦国異伝
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第十話 信行の異変その四
「戦に勝ちその地を手に入れる」
「その地をどう治めるか」
「それが肝心というのですね」
「何の為に勝つか」
ここから話すのだった。
「それは天下を統一する為だ」
「そして手に入れた地はその都度」
「治めていくと」
「そうする。そういえば毛利も北条もかなり政は見事と聞く」
これはその通りだった。毛利にしろ北条にしろだ。その領地を治めることについてもだ。他の大名達と大きく違っていたのである。
信長はそれを聞いていた。そのうえで今言うのであった。
「戦の為に政があるのではない。政の為に戦があるのじゃ」
「さすれば。尾張はこれより」
「殿の手で」
「無事治める。そしてじゃ」
内の話はこれで終わりであった。しかし話はまだ終わりではなかった。
信長はさらにこんな話もするのだった。
「伊勢のことだが」
「はい、それについてはです」
林が信長に対して身体を向けて述べてきた。
「今からはじめます」
「頼んだぞ」
「はっ、伊勢の国人達や有力な豪族をですね」
「国人はわしの下に入れる」
彼等はそうするというのである。
「そして豪族達はだ」
「家中を分裂させそのうえで、ですね」
「織田に組み入れていくぞ。よいな」
「畏まりました。それでは」
林は謹んだ態度で応えた。
「伊勢の調略にかかります」
「種は早めに蒔くものよ」
「そして麦や豆ができたならば」
「それを刈り取るのですな」
「その通りだ。種は今から蒔いておく」
信長はまた言ってみせた。
「そういうことだ」
「では今は」
最後に平手であった。
「犬山も陥としましたし」
「うむ、清洲に戻るぞ」
信長も彼のその言葉に応えた。
「よいな」
「はっ、では」
「今より」
こうしてであった。尾張を統一した信長との家臣達、軍勢は意気揚々と清洲に戻った。そしてそこで留守役だった信行の出迎えを受ける。その時だった。
「津々木だと?」
「はい」
信行はいつもの礼儀正しい動作で兄に応えた。
「その者を召抱えました」
「で、あるか」
「兄上に事前に断りを入れるべきでしたが」
「よい」
それはいいという信長だった。
「優れた者ならば先に用いそれからわしの前に連れて来てもよい」
「左様ですか」
「それでじゃ。その津々木蔵人という者は何処じゃ」
「こちらにいます」
信行が後ろにいる一人の男を指し示した。そこにはだ。浅黒い肌に漆黒の髪と目、それに闇色の着物を着た男がいたのだった。
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