戦国異伝
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第百二話 三人衆降るその六
森達は阿波との境に迫っていた。そうして。
森のところにだ。遂にその報が来たのである。
「そうか、来たか」
「はい。具足も旗も陣笠も紫です」
その紫こそがだった。
「そして鞍も」
「間違いないな」
「長曾我部の家紋も旗にあります」
何よりの証だった。
「ですから。やはり」
「数はどれ位じゃ」
「一万です」
数の報もあがる。
「それだけの数で来ております」
「数はこちらの方がやや上じゃがな」
それでもだとだ。ここで森は言うのだった。
「じゃが戦はせぬぞ」
「それはですか」
「陣を固め守る」
これが森の考えだった。
「そうする」
「まずはそうして」
「そのうえ」
「殿が来られてからじゃ」
全てはそれからだというのだ。
「では。まずは陣を敷き」
「そうしてですな」
蒲生が応える。
「備えましょう」
「そして殿に文を送ろう」
森はこのことも忘れなかった。
それで長可に顔を向けてこう告げたのである。
「御主が文を書け」
「それがしがですか」
「御主は幼い頃より達筆じゃった」
それでだというのだ。
「殿も喜ばれる。その字で文を書け」
「さすれば」
長可はすぐに応えてだった。
そのうえで文が十河城の信長のところに届けられた。信長は忍の者によって届けられたその文を見て言うのだった。
「来たな」
「土佐よりですか」
「来ましたか」
「うむ、鬼が来たわ」
信長は笑ってこう柴田と丹羽に告げる。
「鬼若子がな」
「やはり来ましたか」
「読んでいましたが」
「さて、三好は下した」
まずはこの家からだった。四国では。
「次はじゃ」
「はい、長曾我部」
「あの家ですな」
「ここで戦に勝ちあの家も降す」
「降すのですか」
「滅ぼすのではなく」
「そうじゃ。降す」
そうするとだ。信長は羽柴と丹羽に話す。
「無論向こうが徹底的に来るならばじゃ」
「その時はですな」
「滅ぼしますか」
「その時はそうするがな」
しかし今のところはどう考えているかとだ。信長は言うのである。
「一戦して降ればじゃ」
「それでよい」
「そう仰いますか」
「それにじゃ」
信長はここで楽しそうに笑ってこうも言った。
「鬼を家臣にしてみたいのう」
「あの鬼若子を」
「織田家の家臣にされるおつもりですか」
「よき家臣は一人でも多く必要じゃ」
信長のこの考えがここでも出た。
「だからじゃ」
「ううむ、それは」
「そうですな」
柴田も丹羽もだ。信長の今の言葉には。
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