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戦国異伝

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第百一話 海での戦その九


「浅井殿は信頼できます」
「実はそれもあった」
 ここで信長は種明かしもした。
「猿夜叉を市の婿に選んだのはじゃ」
「信頼できる方だからですか」
「竹千代もだ。手を結ぶからには律儀な者に限る」
「それは確かに」
「そうした意味で謙信は最高の盟友じゃが」
「しかし上杉殿は」
「わしの手に負える相手ではない」
 信長は謙信についてよく知っていた。彼と信玄については自分ではどうにもならないと見ていたのである。
 それでだ。こう言うのだった。
「あの者と武田信玄、それに北条氏康に毛利元就じゃな」
「どの方も英傑です」
「誰の下にもつかぬわ。無論わしもじゃ」
「では」
「倒すか倒されるか、かのう」
 信長は覚悟を決めている目だった。
 そしてその目でだ。こう言ったのである。
「それでも仕方ないわ」
「戦になることもですか」
「そうなってても制せねばな」
 信長は言っていく。そうしてだった。
 飯の時になり干し飯を食いはじめる。その中でだ。
 彼は笑いながら周りにいる竹中と森、それに池田に対して言った。
「ほれ、御主達もじゃ」
「飯ですか」
「それですか」
「そうじゃ。飯にせよ」
 彼等にも飯を勧めたのだ。そして勧めたのは彼等だけではなかった。
 他の者達にもだ。こう言ったのだった。
「足軽達も食え」
「飯をですか」
「我等も」
「腹が減っては戦ができぬ」
 信長がいつも言うことの一つである。
「だからこそな」
「では我等も順番で」
「召し上がらせて頂きます」
「そうせよ。舟の上でも食いじゃ」
 そしてさらにだった。
「寝てこそじゃな」
「そこで飲むことは入りませんか」
「だからわしは酒は駄目じゃ」
 森の突っ込みに笑って返す。彼等は今は共に舟の上に座っている。そうしてその上でこう言ったのである。
「飲むなら茶じゃ」
「しかし今は茶はありませんな」
「水ならある」
 あるのはそれだった。
「それを飲もう」
「そうされますか」
「うむ。しかし舟に乗るというのも」
 それもだとだ。信長は揺れる舟の中で言う。
「よいものじゃな」
「酔いませぬか」
「酒を飲むと酔うどころではないがな」
 本当に一口でだ。信長はそうなってしまうのだ。
「しかし舟にはじゃ」
「酔いませぬか」
「便利な身体じゃ」
 信長は舟に酔わないことを有り難がっていた。そしてだ。
 そのうえでだ。こうも言うのだった。
「こうして飯を食っても何ともない」
「兵の中には酔っている者もいますが」
「それでもですか」
 森だけでなく池田も言ってきた。
「殿は全く酔うことはありませんな」
「舟には」
「泳げる時は泳いでおるからかのう」
 信長は寒くなくなればすぐに泳ぐ男だ。水練については誰にも負けない。
 しかもだ。それに加えてだった。 
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