戦国異伝
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第百一話 海での戦その六
だがこれが海の上ならば潮もある。それがなのだ。
「その潮でどうかと思ったが」
「それをですな」
「そうじゃ。二郎は鉄砲を使う直前までその上に麻をかけて潮や湿りが来るのを防いだのじゃ」
「考えたものですな」
「海を知っているだけはある」
九鬼は伊勢志摩の海の上で生きてきた。滝川の推挙で織田家に入ったのも縁だった。
そしてその水の上での強さからだ。織田家の重臣にまでなった男だ。無論政もできるのでそれでも役立ってはいるが。
その彼がだ。鉄砲を使い敵を倒していく。それを見て信長はこうも言った。
「さて、鉄砲も使えるとならばじゃ」
「鉄砲もといいますと」
「大筒も使えるな」
「砲もですか」
「うむ、あれもじゃ」
近頃話題になっている国崩しだ。鉄砲と同じ様な要領で筒から巨大な弾を放ちそれで敵を攻めるものだ。
織田家にはそれはまだない。だが信長は言うのだった。
「あれもやがて手に入れる」
「そしてですか」
「うむ。海の上で使えるか」
「南蛮の船にはありますな」
彼等から見て南蛮の船はあまりにも大きい。そして実際に砲を幾つも備えている。信長もそのことは知っている。
だからだ。こう言うのだった。
「あの船の様にな」
「大筒を船の上で」
「使えると思うがな」
「鉄砲だけでなく大筒も海の上で使えると大きいですな」
「南蛮のあれを見ていて最初は使えるかと思ったが」
だがそれがだというのだ。
「やはり使えるか」
「それでは」
「造ってみるのも面白いやもな」
こうした話もするのだった。海の上で鉄砲を使う九鬼の軍勢を見て。彼等は鉄砲を巧みに使い続け柴田達の援護をする。戦の流れは織田家に傾いていた。
その流れを見てだ。信長はすぐに命じた。
「第二陣の牛助と第三陣の五郎左に伝えよ」
「攻めに加われとですか」
「二人の軍はそのまま前に進む」
そうせよというのだ。
「右の久助と左の猿は二郎の助けじゃ」
「そうしてですか」
「攻めてそして勝つ」
そうするというのだ。
「そうするぞ」
「本陣はどうされますか」
信長が直接率いるこの軍はどうするかとだ。生駒はこのことも問うた。
「この軍は」
「無論攻める。それではな」
「はい、それでは」
生駒も信長の言葉に頷きだ。そのうえでだった。
織田軍は勝機と見て全軍で三好の水軍を押し潰しにかかった。こうなってしまえば数のうえで圧倒的有利に立つ織田軍のものだった。そうして。
彼等を完全に取り囲んだところでだ。信長はこう言ったのだった。
「降れと告げよ」
「戦は既に決したからですか」
「海に落ちた者でまだ息のある者は助けよ」
助命のことも言う。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「そうじゃ。死んでおるものもあげてやれ」
「葬る為ですか」
「出来る限りそうせよ」
全ての死んだ者を海から引き揚げられずともだ。可能な限り務めよというのだ。
「よいな」
「ではその様に」
「降ればよし」
信長はまずはその場合について述べた。
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