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戦国異伝

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第百一話 海での戦その三


「いつも一緒ではなかったのか」
「あ奴は今は本陣におります」
 信長が自ら率いているそこにいるというのだ。
「殿がそこに配されました」
「そうなのか」
「はい、そうです」
 こう話してだ。そのうえでだった。 
 柴田が率いる先陣は讃岐に向かう。そこには九鬼の水軍もいた。だがここでだった。
 前から来た。その彼等を見て前田が言った。
「ああ、やはり来ましたな」
「奴等の武器は今は水軍しかない」
 柴田は前から来る三好の水軍を見ながら応える。都において散々に打ち破られた軍勢とは違いだ。三好の水軍は威容があった。
 そしてその威容を見てだ。柴田は言うのだった。
「あの軍を破ればじゃ」
「そうですな。いよいよ四国ですぞ」
「讃岐上陸ですな」
「うむ、上がるぞ」
 そうするとだ。柴田は前田と池田勝正に告げた。そうしてだった。
 彼が率いる先陣は正面から進む。そして。
 九鬼は己が率いる兵達にこう告げた。前にいる三好の水軍を見据えながら。
「さて、我等は二手に分かれるぞ」
「そうしてですか」
「左右に分かれてですな」
「そして敵を左右から囲み」
「そうしてですか」
「うむ、攻める」 
 そうするとだ。九鬼は告げて。
 彼の兵は実際に三好の水軍を左右から囲む。その動きは柴田が率いる先陣と見事なまでに連動していた。
 その中でだ。柴田は言うのだった。
「わし等は舟を操ることは不得手じゃ」
「ですな。それはまだまだです」
「どうにも難しいものですな」
「二郎や三好の水軍とは違う」
 決定的なまでにだ。舟を操る腕が違っていた。
 だからこそだ。柴田は言うのだった。
「よいか、このまま突き進みじゃ」
「それでどうされるのですか」
「進まれて」
「まあ見ていよ。二郎も動くわ」
 既に左右に動いている。だがそれで終わりではないというのだ。
 そして三好水軍は一直線ではなくそれぞれ複雑に、まるで生き物の様に動き柴田、そして九鬼の軍勢を襲おうとしていた。その彼等を指揮する将が言うのだった。
「ふん、丘の上で幾ら勝ってもじゃ」
「それでもですな」
「水の上では」
 即ち海の上でもだとだ。周りも言う。
「我等のものです」
「負ける筈がありません」
「ではこのまま攻めましょう」
「それぞれの舟を取り囲み」
 その上でどうするかもだ。彼等は話す。
「そしてですな」
「弓に」
 まずは弓だった。しかもその矢には火も用意されていた。
 そして次にはだ。彼等はあるものを出していた。それは油が入った壷だった。壷の大きさは人の頭程だった。
 壷には縄が括りつけられている。彼等はその壷も見て言うのだった。
「これもあります」
「舟を燃やしてやりましょう」
「舟がどれだけ火に弱いか」
「それを見せてやりましょうぞ」
「そうじゃ。燃やしてやれ」 
 将も笑って言う。 
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