SAO─戦士達の物語
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ALO編
七十八話 終劇
「これで……よし、行こうぜ」
「あぁ。悪ぃな、任せちまったか」
「よく言うよ……」
和人は須郷の腕を彼自身のネクタイで動けないよう後ろ手にきつく縛ると、涼人の方に振り向き、促した。
涼人は車の向こうに見える病院を見つめて佇んでいたが、和人の声にようやく振り返る。と、手の平に少し水気を感じて、左の手を見た。手の端に、すこし血が付いている。おそらく、先程須郷の頭を揺さぶった時に飛び散ったのだろうが……
「…………」
涼人は無造作にそれを右の手の甲とすり合わせると、摩擦により、血は垢と一緒に見えなくなった。
「……兄貴?」
「いや……なぁ、カズ」
「……ん?」
「俺の事、どう見えた……?」
「…………」
和人は、咄嗟に答えられなかった。
と言うより、どう答えればよいのか分からない。と言うのが正しいだろうか。あれを正しく形容する言葉が見つからないからだ。殺気でも、怒気でも無く、唯殺す目的だけを持った意思のようなあれは……
「なーんて、な」
「え……?」
「悪ぃ悪ぃ。なんかイラついてシリアスぶっちまった。行こうぜ。アスナが首キリンにして待ってんだろ?」
「キリンって……でも、そうだな……行こうか」
この会話を最後に、和人と涼人は再び歩き出す。互いの中に僅かな……本当に僅かなしこりを、残したまま……
────
「すぐにドクターを呼んできますから、待っていてください」
ナースステーションで事情を話すと直ぐに警備員が呼ばれ、駐車場へと向かって行った。
和人の腕は初めの一撃で浅いが切り裂かれており、その怪我を治療するため待っていろ、と言われた……のだが。
「おーい、何する気だよ」
「えーっと……」
和人は周囲に誰もいないのを確認すると、小走りでナースステーションに近づき、受付の内側からカードキーを引っ張りだした。
「一応言っとくけどな。それ犯罪だからな?」
「……知ってる」
「上等」
ニヤリと笑ってそう言うと、涼人は和人を促してエレベーターの方へと走る。
早い話、もう一秒たりとも和人は待てないのだ。再会と、自らの思い人への抱擁を。
エレベーターの中に乗り込み、僅かな上昇感覚が二人を包む。やがて階数を示す光が18階を告げ、扉が開く。
ゆっくりと、ドアが開く。
踏み出した足は、先程までと比べると幾らかゆっくりだ。不意に、涼人が和人に後ろから問う。
「怖えぇか?」
「……ちょっとな。けど……今までの方が、ずっと怖かったよ」
「……そうかい」
一歩一歩、少年は踏みしめ歩く。その足に迷いはなく、たとえ遅くとも、迷いもまた、微塵も無い。
そうしてついに、少年は扉の前へとたどり着く。
「あ……」
スリットにカードキーを差し込もうとして、その手からキーが滑り落ちる
「ったく、何やってんだ」
「あ、サンキュ……」
それを拾い上げた、彼の物ではない男の手。鍵はまた、彼の下へと戻る。
扉がスッと小さな空気の音を残して開く。
扉を超えた向こうに、カーテンで仕切られた一角がある。その向こうにはジェルベットがあるはずだ。
これまで、あの仕切りを開けては、幾度となく打ちのめされて来た。その事実が、少年の足を一瞬だけ止める。
『ほら、待ってるよ』
声が、聞こえた気がした。
それは誰のものだったか……唯それと同時に自分の背を押した手が誰のものなのかは、間違えようも無かった
導かれるままに仕切りへと近づき、開いたそこには──
────
扉の向こうから、小さな嗚咽が聞こえる。
先程まで少年の歓喜の声だったそれは今は少女のそれとなって響いている。
ボタンを解放のままにしておくのもそろそろやめようと思い、ボタンを離すと、数秒後に扉が音も無く閉じた。
ふと、廊下の行き止まりにある、窓ガラスからから、大粒の雪がちらちらと舞っているのが見えた。
その奥に、一つの人影が見えた気がした。
灰色の浴衣姿に、手に持つ得物は青龍偃月刀。
とある世界に住むであろう。ある戦士の青年……
『よぉ、そっちはどうだよ?』
小さく、頭の中で問いかける。青年は何も言わずに二ヤリと笑うと、背を向けて飄々とした姿で去って行った。
それと同じく二ヤリと笑い、青年は何となく、天井を見上げる。
『ま、悪くなかった……』
その数秒後、廊下に砂袋を落としたような、鈍く小さな音が響いた。
────
「そうだ、兄貴も来てるから、今呼ぶよ」
「うん!」
気を使ってくれているのか、中々部屋に入ってこない涼人を呼ぼうと、和人は振り返る。扉は閉じていた。
「あれ……?」
内側から扉を開くが、廊下には誰もいない。
「兄貴~?」
飲み物でも買いに行ったのだろうか?そう思い、外に出てようやく、それに気付いた。
人が居たそれ自体は正常だった。唯一つ……直立していない事を除けば。
廊下にうつ伏せに倒れたそれは紛れも無く──
「兄……貴?」
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