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戦国異伝

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第九十七話 都の邸宅その十三


「それならばです」
「我等もまた」
「そう言ってくれるか」
「いえ、あの者は妖術を使っていたやも知れませぬので」
「中々厄介です」
「妖術な。まことにあるとは思っておらんかったわ」
 これは信行が思いも寄らないことだった。現実にあるとはだ。
「しかし二度はない」
「はい、そうですな」
「次に会った時こそは」
「その津々木と同じものを感じる」
 信行は再び話す。
「何処におるかはわからぬが」
「まさか朝廷に」
「帝のお傍におられるのでしょうか」
「有り得るな」
 その可能性もだ。信行は否定しなかった。できなかったと言ってもいい。
「それもまたな」
「では朝廷に密かに」
「調べを入れてみますか」
「近衛殿や山科殿に御聞きしてみようか」
 そのうえで調べようかというのだ。
「それでどうか」
「そうですな。お二人にお尋ねしてみましょう」
「朝廷に関しては」
「幕府は明智殿や細川殿がおられる」
 既に彼等は織田家の家臣と同じ様なものだった。だから彼等に問うというのだ。
「そこから聞こうぞ」
「畏まりました。それでは」
「幕府はそうしましょう」
「寺社も色々と聞こう」
 そちらにも手を回すというのだ。
「あとは町衆もな」
「とにかく虱潰しにですな」
「調べていきますか」
「そうしておいた方がよいな」
 信行は言っていく。
「そしてじゃ」
「殿のご邸宅もまた」
「建てましょう」
 村井と武井もこう返してきた。
「公方様のたってのお願いですし」
「引き受けぬわけにはいきませぬ」
「そうじゃな。しかし今の公方様は」
 信行は都にいる為織田家の中で最も義昭と接している。その彼が言うことは。
「硯かのう」
「硯ですか」
「公方様は」
「何かと書かれておるがな」
 とにかく筆を離さない男だった。常に何かを書いているのだ。
 それを見てだ。信行も言うのである。
「それが危うい方にいかねばよいがな」
「筆は時として槍以上に恐ろしいものになります」
 村井は真剣な顔で信行にこう告げる。
「ですから予断は許さぬかと」
「とはいっても具体的に何をするかというと」
「それはどうもわかりませぬな」
「兄上を頼りにされてもいるしな」
「しかしあの方は癇の強い方です」
 武井は義昭のその気質をもう見ていた。まさにその通りだった。
「それがよからぬ方向にいかねばよいですな」
「そうじゃな。あの方からも目が離せぬな」
 信行は義昭にも危ういものを感じていた。それで目を離さないようにした。都でもまた織田家は政を行っていた。そうしていっていたのである。


第九十七話   完


                      2012・6・28 
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