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戦国異伝

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第九十七話 都の邸宅その三


「岐阜は拠点としては東にあり過ぎるのう」
「確かに。今の領地の東です」
「そこにありますな」
「西にまで目を届けるとなると少し辛いものがある」
 これが信長が今言うことだった。
「治めるなら国の中央がよい」
「では都に」
「都に入られますか」
「いや、都はよくない」
 信長は弟達にもこう述べた。
「都は位置としてはよいが。色々とややこしい」
「朝廷ですな」
「それに幕府もありますし」
「寺社も多いです」
「だからですか」
「あの中にあっては全体を治めにくい」
 その様々な勢力と対峙するからだ。信長はそのことを懸念しているのだ。
「だからじゃ。少しな」
「都には入られずですね」
「そうして治められますか」
「都は離れた場所から見て治める」
 そうするということをだ。弟達にも述べた。
「だから六波羅に勘十郎を向けるのじゃ」
「勘十郎兄上を兄上の名代としてですね」
「向かわせられたのですか」
「あれは真面目で公平じゃ。必ずやってくれる」
 まさに信長の名代としてだ。責を果たしてくれるというのだ。
「だからここは任せよう」
「しかし国全体の政はですな」
「それは」
「そうじゃ。岐阜では治めるに限度がある」
 信長は袖の下で腕を組み難しい顔になっていた。
「何処かに新しい城を築いて入るべきじゃな」
「しかし兄上、今はその政にかかりきりです」
「銭もそこに殆ど回しております」
「新しい城を築くことにまで銭というのは」
「難しいかと」
「そうじゃな。銭もない」
 それがなければだった。
「今はどうしようもないな」
「はい、落ち着いてからですね」
「それからになりますな」
「うむ。では落ち着いてからじゃ」
 築城は今はしないことにした。だが、だった。
 信長は弟達にその然るべき場所も言った。
「しかしその場所は何処がよいかじゃな」
「そうですな。肝心の場所ですね」
「何処にされますか」
 その時はだとだ。信包と信興も言う。
「ただ真ん中に置く訳にもいきますまい」
「そうは」
「その通りじゃ。確かに美濃は東にあり過ぎる」
 今の織田家の領地においてはだった。
「しかしここにおればな」
「武田、上杉にすぐに対するこができます」
「このことは大きいです」
「上杉も飛騨は越えられぬ」
 この国は無理だった。飛騨はあまりにも険しい山地である。いかに謙信とその軍勢でも飛騨のその山を越えるのはできる筈のないことだった。
「それに飛騨にも城を置いておるしのう」
「桜洞城ですな」
「あの城があるからこそ」
「飛騨を抜くことはできん」
 そして美濃に至ることはできないというのだ。
「とはいっても上杉が本気になれば北陸なぞは一気じゃ」
「ですな。畠山も朝倉も」
 そうした北陸の諸大名なぞ敵ではないとだ。信包が答える。
「まさに一蹴でござろう」
「敵は本願寺だけでございますか」
 上杉の北陸での敵はそこだけだと言ったのは信興だった。
「まさに」
「いや、本願寺でも本気になった上杉には勝てぬ」
 信長はこう信興に返した。 
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