戦国異伝
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第九十六話 鬼門と裏鬼門その七
「今の延暦寺というと」
「あれでは平安の頃よりまだ酷いですな」
「僧兵の柄は悪く富を貪り」
「女色や肉を食う者もおるとか」
「いや、それではどうも」
「腐っておりますな」
「そうじゃ。延暦寺の腐り様は目に余るわ」
柴田はその目を怒らせて述べる。
「あれでは何時か天罰が下るぞ」
「全くですな。殿もどう思われるか」
「油断はできませぬな」
「わしの考えでは延暦寺とは揉めたくないのう」
ここでこう言ったのは佐久間だった。柴田と共に織田家の武の看板である人物である。
「あの寺は歴史が古くまた由緒正しい寺だからのう」
「しかしじゃ」
佐久間にだ。柴田が横から述べてきた。
「そうも言ってはいられぬかも知れぬぞ」
「こちらがどう思っておってもじゃな」
「戦は一人でするものではない」
言っているうちは殺し合いにもならない、今言ったのは森だった。
森は深い知恵をたたえたその目でだ。こんなことを述べたのだ。
「相手が仕掛けて来る場合もある」
「ではこの度は延暦寺もか」96
佐久間の顔が厳しいものになった。
「延暦寺が仕掛ける場合もあるか」
「うむ、その場合はどうするか」
「わしも覚悟を決める」
例え延暦寺と戦になることは賛成できないとしてもだ。その場合はだというのだ。
「延暦寺が仕掛けるか織田家に従わぬ様にな」
「それでよい。しかし寺というとじゃ」
森は遠い目になっていた。それはただの年老いた者の目ではなかった。
そのうえでだ。こうも言ったのである。
「厄介な場所じゃな」
「人が来にくい場所にあったりもするしのう」
それだけではないというのだ。
「やはり。人が行きにくい場所じゃ」
「そうじゃ。どの寺もな」
「山とかにあるからのう」
「本願寺は例外じゃ」
森はこの寺は外した。
「石山は平地にある。しかしじゃ」
「巨大でしかもな」
「周りに川があり実に攻めにくい」
「よくもあんな場所に寺を築いたものじゃ」
「全くじゃ」
誰もが石山については苦い顔で言う。ただ巨大なだけではないのだ。
周りに川が多くそれが天然の堀となっておりしかも水運まで使える。石山はその為まさに難攻不落の堅城、下手な城よりも遥かにそうなっているのだ。
だからだ。森も言うのだ。
「あの城はそう簡単には陥ちぬ」
「言うなら小田原城の様なものか」
「簡単には攻められぬ」
「そうした城か」
「そうじゃ。あの寺はあの寺で厄介じゃ」
攻められないというのだ。そしてだった。
「比叡山は言うまでもないな」
「あそこは山城じゃな」
言うならばだとだ。ここで言ったのは織田家の長老である平手だ。彼は比叡山のことも知っていたのだ。
「それもこの岐阜どころではないぞ」
「そうですな。それがしも禅僧ですが」
雪斎も話に入ってきた。彼をはじめとして今川の家臣だった者達も織田家に馴染んでいる。
「あの寺には何度か入ったことがありますが」
「凄い場所ですな」
「山は巨大でしかも険阻です」
比叡山もだ。攻めにくい場所だというのだ。
「しかも守る僧兵達は多く強いです」
「しかも権威があるとなると」
「どちらも敵に回すべきではありませぬ」
雪斎は静かに述べた。
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