戦国異伝
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第九十六話 鬼門と裏鬼門その二
「それでどうじゃ」
「確かに。それではですな」
「公方様も嫌とは言えませぬな」
「幕府には禄を出す余裕もないですから」
「それでは」
「公方様にはこう申し上げる」
文でだとだ。信長は述べた。
「この度の戦や政の功は織田家が幕府の代わりに出したいと」
「そう申し上げてですか」
「そのうえで」
「これなら公方様も嫌な顔をされるどころかじゃ」
むしろだというのだ。
「喜ばれるからな」
「それ故にですか」
「そう文に書かれてですか」
「そのうえで」
「そうするとしよう。織田家が自ら進んで禄を出すのではなく」
代わりにだというのだ。
「織田家から出す」
「では、ですな」
「織田家からは幕府に代わって功の為禄を出させてもらう」
「御礼として」
「あくまで礼じゃ」
この礼にだ。色々なものを隠しもしていた。
「わかったのう、これで」
「はい、それでは」
「その様にですな」
「禄を出すこと自体はよいがのう」
だがそれだけでは足りぬというのだ。
「そこに加えてこそじゃ」
「それで、ですな」
「収まりますな」
「収まるに越したことはない」
これが信長の基本的な考えだった。
「戦なり兵を動かすなりする前にな」
「しかしですか」
「一旦兵を動かすとなると」
「迷ってはいかん」
一旦兵を動かせばだ。その時はだというのだ。
「決してな」
「しかし穏やかに収まるならですか」
「それに越したことはありませんか」
「そうじゃ。この話は収まる話じゃ」
信長から見てだ。そうだというのだ。
「ならばじゃ。このままいこうぞ」
「わかりました。それでは」
「その様に」
四人衆も応える。こうした話をしてだった。
信長はまずは義昭に文を送り禄のことで伺いを立てた。義昭はその文を読み上機嫌で述べた。
「ははは、よいぞよいぞ」
「我等に禄をですか」
「織田殿が与えて下さることはですか」
「うむ、よい」
何も思うことなくだ。義昭は幕臣達に答える。
「好都合じゃ。幕府には領地もないからのう」
「左様ですか」
「それ故にですか」
「よいことじゃ。しかし禄は出さねばならん」
幕臣達も何もなく義昭に従っている訳ではないのだ。やはり禄、即ち糧を必要としてのことだ。このことは誰でもわかることだ。だが、だったのだ。
幕府にはその禄を出す余裕すらなかったのだ。それでだったのだ。
「信長が出すのならよいわ」
「では幕府としてはですか」
「織田殿の申し出はよいのですか」
「よいぞよいぞ」
やはり笑っての言葉だった。
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