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戦国異伝

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第九話 浮野の戦いその八


「よし、このまま一気に突き進め!」
「抜かるでないぞ!」
 前田と佐々である。信長の家臣の中で最近名をあげている猛者達である。
 彼等の軍が突き進みだ。そのうえで信賢の兵に襲い掛かる。
 その攻撃を受けてだ。信賢の軍勢は浮き足立った。
「ま、まずいぞ!」
「このままでは!」
 その伏兵達だけでなく信長が率いる本軍も攻撃を続けている。このままではだった。
「殿、このままでは!」
「全滅します!」
「どうされますか!」
 家臣達が血相を変えて信賢に対して問う。
「戦いますか、それとも」
「どうされますか?」
「止むを得ん」
 信賢は彼等のその問いにだ。苦い顔で応えるのだった。
「ここは一時退く」
「そうしてですね」
「軍を立て直しそのうえで」
「そうだ、再び戦う」
 そうするつもりだった。そのうえで下がろうとする。
 その退くのを見てだ。信長は言うのだった。
「ふむ、又左も内蔵助もわかっておるな」
「あの二人がですか」
「そうじゃ。ここで敵をわざと逃がさせる」
 林に応える。彼が見ていたのは敵ではなく自身の軍勢とそれを率いる将達だった。
「甚助の策をよくわかっておるようだな」
「確かに。最初は心配だったのですが」
「しかし上手くやってくれている」
 彼はまた言った。
「それではだ」
「はい、それでは」
「ここは一時退かせる」
 これが信長の見方だった。
「いいな」
「はい、それでは」
 林は彼のその言葉に頷く。そのうえで信賢の軍勢を下がらせる。しかしであった。
 その下がった軍勢にだ。彼等が来たのだった。
「何っ、またか!」
「また敵が来たというのか!」
 信賢の兵達は下がりながら驚いたのだった。
 また左右から青い軍勢が出て来た。その軍はだ。
「行け!進め!」
「手柄を立てるは今ぞ!」
 川尻と金森だった。彼等が率いる兵達だった。
 彼等はそのまま突き進みだ。信賢の兵を打つ。その攻撃はかなりのものだった。
「くっ、この連中強いぞ!」
「駄目だ、かなわん!」
「逃げろ!逃げろ!」
 信賢の軍勢は最早統制も何もなかった。ただ逃げ惑うばかりだった。
 逃げる先は敵のいない場所だ。それしかなかった。
「あっちだ!」
「ああ、逃げろ!」
「あっちだ!」
 彼等は一目散に逃げて行く。しかしだった。
 そこにだった。また出て来たのだった。
「よし、今だ!」
「突き進め!」
 今度は右に坂井、左に森だった。彼等の兵が襲い掛かってだった。
 信賢の兵をさらに打つ。その攻撃はかなりのものだった。
「こ、この連中も強いぞ!」
「弾正の兵はこんなに強いのか!?」
 その強さにさらに混乱する信賢の軍勢だった。そしてさらに逃げるのだった。
 だがまたしてもだ。左右から青い軍勢が出て来たのだった。
「よし、手柄だ!」
「今こそ手柄を立てよ!」
 右から佐久間、左から滝川の兵が来て攻勢を仕掛ける。信賢はその最早逃げ惑うだけの己の軍勢を見てだ。呆然とさえなっていた。 
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