戦国異伝
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第九十四話 尾張の味その十一
その話をまとめてからだ。信長は家臣達に言うのだった。
「さて、勝った祝いの宴はここではせぬ」
「では岐阜ですか」
「岐阜で行われるのですか」
「そうされますか」
「うむ、そこで盛大にやろう」
家臣達に笑みで話す。
「わしも楽しみじゃ」
「では殿はお茶ですな」
羽柴が言ってきた。信長は酒を飲まないことは今も変わらない。
「それでお祝いですな」
「そうじゃ。酒を飲まずともじゃ」
それでもだというのだ。
「宴は楽しめるものじゃ」
「ですな。それでは」
「そういえば親王様も酒は駄目と聞く」
皇族の方にも酒を飲めない方がおられるというのだ。
「その方と時間があれば茶をな」
「共に飲まれますか」
「そうされたいですか」
「うむ。是非な」
こう言う信長だった。
「茶会にお招きしたい」
「ううむ。皇室の方をですか」
「殿の茶会にですか」
「あくまで望みじゃがな」
だがそれでもだというのだ。
「何時の日かな」
「そしてやがてはですか」
「帝もですな」
「殿のお茶会に招かれますか」
「そうされますか」
「わしの一つの夢じゃ」
信長は遠いものを見る目で語る。
「帝を茶会にお招きすることもな」
「では公卿の方々ともお話をされてですか」
「そのうえで、ですな」
「そうしよう。当然公卿の方々もお招きする」
信長の茶会、それにだというのだ。
「楽しみにしておるわ。わし自身もな」
「ではその夢の一つを適える為にも」
「まずは美濃に戻りますか」
「岐阜に」
「随分と長く留守にしておったが」
岐阜についてはだ。信長は笑みで話していった。
「帰ったら爺がいきなり言ってくるやものう」
「心当たりがおありですか?」
平手と並ぶ織田家のうるさがたの柴田がここで問うてきた。
「平手殿にそう言われることが」
「ないが。爺は目ざといからのう」
老人独特というものでない。平手の目はまた特別なのだ。
「何か見つけて小言やも知れぬな」
「まあそういう御仁ですが」
「それでも爺のあの顔を長い間見ておらぬと妙に寂しい」
信長は楽しげに語っていた。
「ではじゃ」
「はい、岐阜に戻り」
「政としましょう」
こう話してだ。一連の戦を終えた織田家は岐阜に戻った。この度の上洛は織田家にとって実に実りの多いものだった。天下さえ見えるまでに。
第九十四話 完
2012・6・5
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